東京高等裁判所 昭和30年(う)3089号 判決
被告人 荻島正稔
〔抄 録〕
論旨第一点及び第二点。
原判決挙示の証拠によれば、被告人は昭和二十九年二月五日大宮簡易裁判所において窃盗同未遂罪により懲役一年に処せられ右判決は同月二十日確定したことが明らかである。従つて、原判決が犯罪の成立を適法に認定した事実のうち、原判示第五の1乃至11の事実(昭和三十年九月十九日付起訴状添付の一覧表中1乃至11の事実に該当する。)は、右確定判決との間にいずれもそれぞれ刑法第四十五条後段に該当する併合罪の関係にあるとともに右1乃至11の各罪相互の間には同条前段の併合罪の関係が成立するものとしなければならない(本件証拠上右各罪が犯意の単一乃至継続等の理由に基くいわゆる包括一罪であるとは到底認め難いところである。)のであるから、この点に関する法律の適用としては刑法第四十五条の後段及び前段第五十条第四十七条第十条を適用し併合罪の加重をしなければならないわけである。然るに原判決のこの点に関する法律の適用をみるに、刑法第四十五条後段第五十条第四十七条第十条(最も重い10の罪の刑に法定の加重)と記載してあつて刑法第四十五条前段が明示されていないことは所論のとおりであるけれども、元来刑法第四十五条のような総則規定は特にその条文が明記されていなければ主文に示した刑のよつて生ずる理由が判明しない場合は格別、然らざる場合は、その条文を適用しておることが推察され主文のよつて生ずる根拠が明らかであるかぎり未だその明示のない故をもつて所論のような判決を破棄すべき違法があるとまで解すべきものではないのである。本件においては、刑法第五十条の規定の明示によつて前記確定判決と併合罪の関係にあつて未だ裁判を経ない原判示第五の1乃至11の罪につき処断するものであることを、又「同法第四十七条第十条(最も重い10の罪の刑に法定の加重)」との記載によつて右1乃至11の各窃盗の罪がそれぞれ所定の有期懲役刑に処すべき併合罪の関係にあるのでそのうち最も重い10の窃盗の罪について定められた刑の長期にその半数を加えたものを長期とした刑期の範囲内で被告人に対する主文第一項の懲役十月の刑を量定したものであることが明らかに推察できるのであるから、刑法第四十五条前段の明示のない瑕疵があつても、この瑕疵をもつて理由のくいちがい又は判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤があるものということはできない。論旨は理由がない。