東京高等裁判所 昭和30年(う)3389号 判決
被告人 志茂繁蔵
〔抄 録〕
論旨の二について。
倉庫保管の責任者は倉庫の所蔵品を一々点検調査し、いかなる品がどれだけ入つているかを常に知悉しているとは限らず、寧ろ多くの場合倉庫内の物品の存在やその数量を知らないのが普通であろうが、倉庫内に納められた以上は、これに対する保管の意思を有していたものとすべきこと当然で、その存在を知らなかつたからといつて、保管の意思がなかつたとはいえない。
本件に於ては原審証人藤田正義の証言は被覆電燈線合計五把が原判示日時判示倉庫にあつたか否か、又それがその頃盗難にあつたか否かを知らず、ただ同人が八王子警察署に出頭した際窃盗被害事実は判明しなかつたが犯人が自白していると聞いたから数量等も警察当局のいうままを記載した盗難届を提出してきたというに過ぎないから、被告人の本件窃盗の補強証拠としての適格性はないものといわなければならないが、倉庫の保管責任者たる東京鉄道管理局八王子電力区長が倉庫内物品(電燈線)につき保管の意思がなかつたことを証明するものではない。この事は盗難品たる右電燈線に関し帳簿に記載がなく、それが何人の所有であり、何時どうして八王子電力区の保管倉庫に入つたか判らなくても同様であつて、本件被覆電燈線が倉庫保管責任者たる八王子電力区長保梅豊吉の保管の下に置かれていたものと認むべきもので、これを窃取した被告人に窃盗罪が成立するのは当然である。その他記録を精査しても、原判決には所論の如き事実の誤認が存するとは認められず、所論は叙上と異る見解から原判決の事実誤認を主張し、延いては被告人の所為が窃盗罪を構成しないと主張するのであつて採用できない。
(近藤 吉田作 山岸)