大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)3403号 判決

被告人 朴明植

〔抄 録〕

所論は、要するに、本件公訴事実は、結局、被告人は(第一)崔源吉から内国に流通する外国紙幣たるアメリカ合衆国政府発行の一〇ドル表示軍票の偽造物一五枚をその偽造物たる情を明かされて知りながら之を邦貨と両替する目的を以て受け取つて収得し、(第二)その後右一五枚中の一枚を真正のものとして第三者に手交して行使したものであると謂うに在る。然るに、原判決は、右(第二)の行使の点のみを有罪と認め、右(第一)の収得の点については、当時被告人は前記崔と共謀して同人の所持していた右偽造軍票の行使を企て、そのために崔から渡されたものを受け取つたのであるから、同所為は右行使の共謀者内部間において行使実現のためにする準備行為に過ぎず、従つて同所為は偽造外国通貨の収得罪を構成せざるものと認定し、ただ、右(第一)の受取行為は右(第二)の行使行為と手段結果の関係にありとして起訴されたものと認められるから、右受取行為の点については判決主文において特に無罪の言渡をなさざる旨判示した。然し、元来偽造の通貨は何人の所有をも許さざる所謂法禁物であり而して刑法第一五〇条所定の「収得」とは、引き渡される事情の如何を問わず苟くも偽造物たるの情を知りながら之を受け取る場合を汎称するものであるから、被告人の右偽造軍票受取行為も、やはり同条所定の収得罪を構成する。而して右(第一)の一五枚の収得と右(第二)の一枚の行使とは全面的に手段結果の関係に立つものである。故に原判決が右(第一)の受取行為を以て何らの罪をも構成せざるものと認定したのは、以上の如き法律の解釈を誤つた結果罪となるべき事実を罪とならざるものと誤認するに至つたものなる旨主張するものである。

そこで按ずるに、被告人が本件起訴状記載の公訴事実第一の如く昭和三〇年五月下旬頃東京都板橋区成増町グランドハイツ附近の路上において高山こと崔源吉から内国に流通する外国紙幣たるアメリカ合衆国政府発行の一〇ドル表示軍票の偽造したもの一五枚を、その偽造たる情を明かされて知りながら之を邦貨と両替する目的を以て受け取つたことは、崔源吉の検察官に対する供述調書、被告人の検察官に対する供述調書二通その他原審取調にかかる諸証拠によつて之を認めるに十分である。然し更に、之を受け取るに至つた経過を審究するに、これは右崔が同年四月末か五月初め頃平野某に対する貸金の担保として右僞造軍票を同人より受け取り、その後僞造物たることを知つてから之を邦貨に両替しようと企て、五月下旬頃被告人に右事情を打ち明けて両替のことを相談した結果両名間に右僞造軍票を真正のものとして邦貨に両替すること而して同両替の直接の衝には被告人が当ることの通謀が成立し、その実行方法として、被告人の知人等の居住近辺たる前記グランドハイツ附近において右崔より同僞造軍票を受け取つたものなることは右崔の検察官に対する供述調書、被告人の検察官に対する供述調書二通その他前記諸証拠によつて明らかである。故に、右受取行為は、ひとしく僞造物たる情を打ち明けられて知情の上受け取るにしても受取後同物件の処分が受取者の意思に委ねられる場合等とも異り、右崔と被告人とは右軍票の両替という行使行為につき共謀による共同正犯であり、その内部間において右両替の準備的行為として右軍票の所在点を機械的に移動させたに過ぎない。従つて、被告人の右軍票の受取行為自体は、その行使行為の成否に拘らず刑法第一五〇条所定の「収得」に該当せざるのみならず、両替という行使行為と斯る関係にある準備的行為を独立に処罰すべき規定もない以上(刑法第一五三条参照)、他の何らの罪をも構成せざることに帰する。

なお、原判決において認定した被告人の右偽造軍票中一枚の行使行為は被告人が崔源吉から右軍票一五枚を知情の上受け取つた行為と牽連関係ありとして起訴されたと認めるべきは所論のとおりであるが、一般に牽連関係にある所為は本来は各独立に犯罪として成立し得べき数個のものを処断上一罪として取り扱うに過ぎないのであるから、その実質的数罪間に成否の独立性が失われたわけではない。故に、原判決が被告人の本件軍票中一枚の行使を有罪と認定したことは特に右一五枚の受取行為を以て独立的に無罪に認定することの妨げとなる筋合のものではない。

(久礼田 武田 石井文)

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