大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)363号 判決

被告人 荒井俊一

〔抄 録〕

右弁護人の控訴の趣意について。

論旨は判示第一事実について、刑法第二百三十五条を適用した原判決は、法令の適用を誤つたもので、同法第二百五十四条をもつて問擬すべきであるというのである。しかし刑法第二百三十五条の窃取とは他人の所持するすなわち事実上支配し管理する財物を、その人の意思によらないで、不法に領得する意思を以て、その所持を侵害し自己の支配内に移すことをいうのであつて、右他人の所持するとは財物の形状、自然的又は経済的性質その他の具体的事情等によりその態様は一様でなく、必ずしも財物を現実に握持又は監視する必要はないものと解すべきところ、原判決挙示の判示第一事実の関係証拠によれば被害者井上庄三は原判示日時場所において列車待合せ中、乘客の列の中に自己の所持する判示ボストンバツグ及び手提鞄各一個を置いたまま、約十分間その場所を去り、電報を打ちに行つたことを認めることができ、右ボストンバツグ及び手提鞄は当時右井上庄三において一時現実に握持又は監視していなかつたとしても未だ同人の事実上の支配を脱していなかつたものというべく、刑法第二百五十四条にいう遺失物或は占有離脱物ではないから、被告人がその隙にこれを奪取した本件所為を刑法第二百三十五条に問擬したのは正当である。よつて所論のように法令の適用を誤つた違法はないから、論旨は理由がない。

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