東京高等裁判所 昭和30年(う)509号・昭30年(う)580号 判決
抗告人等は、特許法第四十四条第二項の規定は、強制執行による譲渡命令の場合には適用なく、特許権の共有持分について譲渡命令があつたときは、他の共有者の同意がなくても持分移転の効力があるのに、右と反対の見解に出た原決定は違法であると主張するので按ずるに、民事訴訟法第六百二十五条第三項の規定に基く裁判所の譲渡命令がなされた場合、その目的たる財産権が移転の効力を生ずるか否かは実体法の関係で定まるものであつて、裁判所の譲渡命令なるが故に当然に権利移転の効力を生ずるものではない。
元来特許権は譲渡性を有するものではあるが、特許発明の実施は他の権利の行使と比較して、特に共有者相互の間の和衷協同を必要とするため、特許法第四十四条第二項は特許権の共有持分を譲渡するについては、他の共有者の同意を必要とする旨を規定しているのであるから、特許権が共有に係る場合その持分の譲渡性は制限されているものといわなければならない。従つて特許権の共有持分について民事訴訟法第六百二十五条第三項の規定に基く譲渡命令がなされても、他の共有者の同意がないときは持分移転の効力を生じないものと解するのを相当とするので、右と反対の見解に出た抗告人等の主張は採用することができない。
次に抗告人宮武達夫は本件特許権の共有者猪股功の持分移転については他の共有者等において同意をなし又は暗黙の同意をしていたと解して差支のない事由があるから、譲渡命令の結果右猪股の特許権共有持分は抗告人宮武に移転したものであると主張する。しかしながら、抗告人宮武が別紙追加申述書第七の(イ)ないし(ハ)に記載しているような事実があつたとしても、このことだけで本件特許権共有者猪股功の持分移転について他の共有者たる河上益夫、大道彰等において同意をしていたものと解することはできない。その他本件記録を精査しても、右同意の事実を認めるに足る資料は存在しないので、抗告人宮武の右主張もまた採用することができない。
なお、抗告人等は原決定は民事訴訟法第七十四条第二項に違反し審尋の手続を経ないでなされた違法があるから取消を免れないと主張するのであるが、民事訴訟法第七十四条第二項の規定は、裁判所が訴訟の繋属中第三者においてその訴訟の目的たる債務を承継したものと認め第三者をして訴訟の引受を命ずる決定をなす場合、裁判所が決定前当事者及び第三者を審尋すべきことを規定したものであつて、訴訟引受の申立を却下する場合には、審尋手続を経る必要がないものと解するのを相当とするので、抗告人等の右主張もまた採用に値しない。