東京高等裁判所 昭和30年(う)543号 判決
被告人 施炳[土岡]
〔抄 録〕
被告人の論旨中、事実誤認に関する主張について。
原判決挙示の証拠によると、被告人は昭和二十七年十月三十一日、当時の居住地であつた福島県双葉郡請戸村長に対し外国人の登録申請をし、第四一、九八五号の外国人登録証明書の交付を受けたが、昭和二十九年八月頃同県南会津郡田島町附近で右証明書を紛失し、当時その事実を知りながらそれから十四日以内に前記居住地の村長(但し地区改正により双葉郡請戸村は同郡浪江町となつたから同町長)に対し登録証明書の再交付を申請せず、同年十月十五日まで引続き本邦に在留した事実を認めるに十分である。所論は、被告人は右登録証明書紛失の事実を知つた当時直ちに一切の手続を完了したから違反行為はないと主張するけれども、その然らざることは前認定の通りであるから右主張は採用できない。もつとも被告人は前記登録証明書を紛失した当時、前掲田島町役場及び浪江町役場に対し右紛失の事実を申出た事実の存することは認められるけれども、外国人登録法は本邦に在留する外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理に資することを目的として施行されているものであるから、その登録手続は勿論、登録証明書記載事項の変更またはその再交付の手続などについても厳格な方式によつて適正に行われる必要があるのは論をまたない。従つていやしくも外国人登録証明書を紛失した場合には必ず外国人登録法第七条所定の方式に従つてその再交付申請手続を履践しなければならないものであるから、仮令被告人において前記のように紛失当時の滞在地もしくは居住地の市町村長に対してその旨口頭で申告したとしても、それのみでは法定の手続を履行したものということはできない。また所論は前記田島町または浪江町役場吏員において法定の手続をとつてくれる旨を告げたのでそれを信頼して自らその手続をとらなかつたものであるとも主張しているが、記録を精査しても右のような事実を認めることはできないから、この主張も排斥を免れず、その他所論に徴して記録を査閲検討しても原判決にはなんら事実誤認は存しない。論旨は理由がない。