東京高等裁判所 昭和30年(う)859号 判決
被告人 斎藤功 外一名
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点について。
自動車の運転免許は公安委員会がこれを為すものであり、何等自動車運転免許の権限なき者が行使の目的を以つて、公安委員会名義の自動車運転免許証用紙に、被免許者の氏名、年齢や免許の種類等所定事項を記入し、公安委員会の印章を該委員会名下に押印すれば、右運転免許証の僞造はここに完成せられ、僞造行為としてそれ以上一指といえども加える必要をみない。この事は警察署警ら交通課交通係巡査が運転免許証を偽造する場合にも同様である。もつとも本件では上田市警察署警ら交通課勤務の巡査で、自動車運転免許受験申請書の受付、同試験合格者に対する免許証の作成、交付、免許証の更新又は再交付等交通関係の事務に従事していた被告人斎藤功が、自動車運転者試験に合格していないし、その試験を免除される正当な理由がなく、従つて運転免許を受ける資格のない平井昭次以下原判示別表(一)記載の人々に対し、行使の目的を以つて、上田市公安委員会名義を冒用し夫々運転免許証を作成交付するに際し、上司たる上田市警察署長等の決裁を経ており、本件証拠品となつた偽造免許証には公安委員会名の傍に上司の印影の存するものが多数存在していることは認められないわけではない。しかし上田市公安委員会名義の運転免許証作成権限が上田市警察署長に存するわけではない。もし上田市警察署長に作成権限のある書類ならば、同署長の押印あるまでは単に草案ということも或は不可能ではないとしても、同署長に作成権限のない運転免許証については、被告人齋藤が署長の決裁を受けるまでは免許証の案文に過ぎないということはできない。又警察署長の決裁印が有ると無いとで運転免許証の効力が異なるわけでなく、署長の決裁印は部下の事務執行の監督その他警察署内部に於ける効果があるに過ぎないから、警察署長が印を押すことによつて初めて法律上有効な運転免許証が作成されたものということもできない。原判決が被告人斎藤の原判示所為を以つて公文書偽造行為を完了したものとし、これに刑法第百五十五条を適用したのは正当であり、右見解に反し警察署長の決裁あるまでは免許証が成立しないものとし、更に進んで右決裁印の押捺によつて公安委員会の印も上田市警察署長が自ら押印したと同視すべきものとし、これを前提とし被告人斎藤に対しては刑法第百五十五条が成立しないとする論旨は理由がない。
(近藤 吉田作 山岸)