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東京高等裁判所 昭和30年(う)878号 判決

被告人 S

〔抄 録〕

弁護人の論旨第一点について。

刑事訴訟法第三百十二条第一項は裁判所は検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならないと規定しているが、同条は被告人に不意打ちの攻撃を加えることによりその防禦権の行使に不利益を及ぼさしめないことに存するものであり、公訴事実と基本的事実関係に於て同一であり、訴因を制限縮少された態容に於て事実の認定をする場合に於ては不意打ちの攻撃により相手方に実質的な不利益を蒙らしめる虞がないと認められるから、訴因罰条の変更を要せずして制限縮少された事実を認定することができるものと解するを相当とし、所論のように刑事訴訟法第三百十二条の存することから逆にいかなる場合にも訴因の変更なしにこれと異る他の罪について有罪の言渡をすることができないとすべきではない。本件に於てこれをみるに、起訴状には強盗傷人の訴因罰条が記載せられているところ、原判決は恐喝未遂と傷害の事実を認定したこと所論のとおりであるが、恐喝未遂と傷害の事実はその犯行の日時、場所、方法等いずれも起訴状記載の訴因たる強盗傷人と基本的事実関係において一致しているのみならず、前者は後者の制限縮少された態容の事実というべきで、原判決が訴因の変更を命ずることすらせずに前者の事実を認定したのは妥当でないとしても被告人に実質的に不利益を及ぼしたものと認められないから、違法ではなく、論旨は理由がない。

註 原判決の認定した、恐喝及び傷害の事実は、

被告人は、二〇才に満たない少年であるが、

一、(イ)昭和二九年九月一〇日夜、友人のA(一九才)、B(一七才)、C(一八才)ほか二名の少女と近村の盆踊に出掛けたところ、翌一一日午前一時ごろ、新潟県南蒲原郡福島村大字貝喰地内通称一の橋附近路上で、飲酒の上自転車に乗つて通りかかつた同郡今町大字三林松永貞雄(三〇才)から右Cが「この野郎、危い、ぶつ殺すぞ。」などと怒鳴られた旨聞きつけて憤慨し、直ちにA、Bと、その報復をした上あわせて同人より金品を喝取しようと相図り、酒気を帯びた右三名は、松永を呼び止めながらその後を追つた。

同午前一時半ごろ、被告人等三名は、同所より二の橋に向い約一五〇米の地点で、右呼声に引き返して来た松永に追い付き、三名で同人を取り囲むようにして各自所携の短刀を鞘のまま掴み前に突き出した上、被告人は「この野郎とは誰に云うんだ」と因縁をつけ、二、三押問答の末「我々は前科を犯し追われている。昼間出て歩けないから夜こうして稼いでいるんだ、なまあつたら出せ。」と云つて脅迫し、金員を喝取しようとしたが、同人が「金はない。」と拒絶し、又畏怖する色なく「君達の持つている短刀は本物か。」とやり返して、三名より順次短刀の交付をうけ、中身をあらためた上返還する等の態度に出て、気勢をそがれたため、その目的を遂げなかつた。

(ロ)続いて松永が、勤務先の志田某といざこざがあり面白くないから酒を飲んだ旨被告人等に述べたところ、三名意思共通の上、被告人は、「その野郎をばらしてやるから、一〇万円都合しろ」と威勢を示し、松永が断ると「家からでも都合できるだろう。」と云いながら所携の短刀(刃渡約一七糎)の峯で同人の左前膊部を数回叩き、更に二、三応酬の後、松永に仁義をきるよう求めたが、同人が民謡の文句を借用したと云つてその説明に歌い始めたので、被告人は、「ふざけるな」といきなり下駄履きで同人の睾丸附近を蹴り、その場に同人がうずくまると、更にその顏面を蹴る等の暴行を加え、よつて同人に対し、一〇日間の加療を要する顏面挫創、左前膊打撲傷の傷害を与えたものである。

なを、本件起訴状による強盗傷人の訴因は、

「被告人は、

(一)昭和二十九年九月十一日午前一時三十分頃南蒲原郡福島村大字貝喰地内の村道上に於てA(十八年)と共謀の上折柄通りかかつた松永貞雄に対し所携の刃渡十八糎の短刀を突きつけて「俺達は前科者だが追われているので昼間は出られないからこうして稼ぐんだ現金を出せ」と申向けて脅迫した上更に「十万円出せ無ければ何とか都合しろ」等と申向け同人が之を拓否するや同人に対し右短刀を以てその上膊部に数固峯打を加えその睾丸附近及び顏面を下駄履きのまま蹴上げる等の暴行を加え以て同人の抵抗を抑圧し現金を強取しようとしたが偶々同人が現金を所持していなかつたためその目的を遂げるに至らなかつたがその際右暴行に因り同人に対し十日間の加療を要する顏面挫創、左前膊打撲傷を負わせたものである。」

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