東京高等裁判所 昭和30年(う)936号 判決
被告人 斎藤柳七郎
〔抄 録〕
両弁護人の事実誤認の論旨について。
原審の認定した事実は論旨摘録のとおりであつて、右事実によると、被告人は原審相被告人渋谷大作及び同大井賢司と共謀のうえ、いわゆる「つかみどり丁半」の方法を利用した原判示の方法による詐欺賭博において勝負に際し、素人の客はとかくその操作の間に碁石一個を取り落し、奇数であるべき掌中の石数が偶数となつていることに気付かぬ場合が多いので、その機会をねらい一挙に原判示被害者五十嵐圭二の相手方なる右渋谷大作の勝に帰せしめて五十嵐の賭金を取得することを企図し、原判示のように五十嵐を巧に誘引して、被告人が五十嵐と組み渋谷と勝負するものの如く見せかけて私かに原判示必勝の方法により一応、恰好だけは五十嵐側の勝に帰せしめ、同人をして必勝の確信を固めしめるに至つたが、案の定、最後に親となつた五十嵐が碁盤の上から二十一個又は二十三個の奇数の碁石を掌中にかき集める際、内一個を取り落して気付かないのを看取するや、被告人はこの機に乗じ被告人も金二十五万円を賭けるもののように装い、五十嵐にも同額の現金を賭けさせて予定どおり相手方渋谷の勝に帰せしめ、以て該金員を取得したというのである。すなわち、被告人等は当初より五十嵐が右の如き錯誤に陥るべきことを予想し、而も現実にその錯誤を利用して同人の前示賭金を取得したというのであるから、詐欺罪の構成要件を具備していることはいうまでもない。論旨は、五十嵐においても原判示「つかみどり丁半」による欺罔方法を諒知のうえ、自らも亦相手方たる渋谷を欺罔してその賭金を取得しようとの意図の下に右賭博を試みたところ、偶々自己の不注意によつて碁石一個を取り落したのに気付かず勝負をしたため、逆に損したに過ぎないから、これを以て被告人等に騙されたということはできない旨主張するけれども、これは被告人等において前記の如き五十嵐の錯誤を利用した点を看過した謬論であつて、到底採用するを得ない。なお、刑法第二百四十六条第一項にいわゆる「財物を騙取」とは、欺罔の結果、他人の財物を握取する場合に限らず、犯人の自由に処分し得べき状態に置くことを指称するものと解すべく、従つて本件の二十五万円が藤山弁護人所論の如く、原判示勝負に先立つて五十嵐から被告人に手渡されていたとしても、右勝負によつて五十嵐の負に帰し、茲に初めて該金員が被告人等の自由に処分し得べき状態に置かれたのであるから、原審が右勝負に基き被告人等において右金員を五十嵐から騙取した旨認定判示したのは正当である。以上の如く、原審の事実認定には所論のような誤謬はないので、論旨は何れも理由がない。
註 本件破棄は量刑不当。