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東京高等裁判所 昭和30年(ツ)31号 判決 1955年12月24日

上告人 控訴人・被告 深野幸太郎

訴訟代理人 神谷安民

被上告人 被控訴人・原告 鳥居キミ 外三名

訴訟代理人 清瀬一郎 外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人神谷安民の上告理由は、別紙記載のとおりである。

上告理由第一点について。

しかし、罹災都市借地借家臨時処理法第三条による借地権優先譲受申出権は罹災者たる借家人に特に賦与された請求権であるから、同人のみがこれを行使することができ、従つてその譲渡は許されない。これに反してなされた譲渡は無効である旨の論旨引用の原判示は、当裁判所においてもこれを是認することができる。したがつて、右と異る見解に立脚する論旨は到底採用することができない。

同第二点について。

しかし、借地権及びその目的たる土地の所有権が同一人に帰属したときでも他に借地権の共有者の存する場合にはその借地権は消滅を免るべきものと解するを相当とすることは、民法第一七九条第一項但書、第五二〇条但書、等の規定の精神に照し疑を容れないから、本件においてかかる消滅を免れた借地権者たる鳥居龍次郎は、自己の所有に帰属した本件土地ではあるが、借地権を保全するため、他の借地権共有者と共に所有者たる自己に代位して自己の有する所有権に基く右土地返還請求権を行使し得るものといわざるを得ない。論旨は畢竟右と反対の見解に立つて原判決を非難するものであつて、到底採用することができない。

同第三点について。

しかし、罹災都市借地借家臨時処理法第一〇条にいわゆる対抗とは罹災地につき権利を取得した第三者に対し借地権者が自己の権利を主張することを意味する。したがつて借地権の存在を前提とするが故に、第三者の側からの借地権の是認又は否認が生じ得るのであり、本件においては鳥居龍次郎が自己を含めた被上告人等の借地権の存在を認めていることは原判文上明かである。故に論旨前段引用の原判示は当裁判所においてもこれを是認することができるのであつて、この見解からすれば、被上告人等の本件代位訴求を認めた原判決には所論のような理由齟齬の違法はいささかも存しない。論旨は畢竟独自の見解を立てて原判決を非難するにすぎないものであつて、到底採用することができない。

同第四点について。

しかし、上告人が本件罹災地にある借地人鳥居龍蔵所有の書庫の保護見張りを依頼されたとの主張事実は、本件土地の借地権が右龍蔵から上告人に移転したとの原判決摘示の上告人の主張事実を証する事情として主張されたものであることは、記録を精査してこれを領し得られないことはない。しかして原判決によれば、原審は本件土地の借地権が鳥居龍蔵から上告人に移転したか否かについて認定判断していることが明瞭であるから、原判決には所論のような判断遺脱の違法はなく、したがつて本論旨も採用することができない。

以上説示したとおり、論旨はすべて採用に値しないから、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 判事 中村匡三)

上告代理人神谷安民の上告理由

第一点原判決は訴外吉田正一が罹災家屋借家人として処理法第三条による借地権優先譲受申出権を取得したことを認定し乍ら同権利は罹災建物賃借人のみに特に賦与された請求権であるから同人のみが之を行使することができその譲渡は許されない之に反してなされた譲渡は無効である旨判示し以て上告人の抗弁を排斥して為されたのであるが右借地権優先譲受申出権は之を他の被災者に譲渡してならぬとの法規は存しない。右法規の精神は被災者として速に立上らしめ戦災都市を速に復興せしめる為め規定された規定であり、右申出権そのものは被災借家人に限られたものではあるが他の被災者に之が譲渡を許さない趣旨のものではない。大邸宅の借家人が被災の後ささやかな一戸を建て過すのみが手一杯と言うことは多々ありしものにて他の不用被災借家敷地を只一人しか使用し得ないとの結論に到達する原判旨は全く前法規の精神に反する不当なものであることが明である即ち原判決が右申出権の譲渡を否定したことは右処理法第三条の法意を誤解した違法が存するものと云はねばならない。

第二点原判決は「控訴人が本件土地を占有するにつき土地所有者に対抗できる正権限を有することの主張立証がないから土地所有者龍次郎はその土地所有権に基き控訴人に対し前記家屋を収去してその敷地を返還することを請求しうべき権利を有するものと云はねばならない。然るに龍次郎が右請求権を行使しない…………から被控訴人は前記賃借権を保全する為賃借人たる龍次郎に代位して右龍次郎が控訴人に対して有する前示請求権を行使し得ると云はねばならない」と認定し被控訴人の請求を認めた第一審判決は正当と判示したのであるが。右判文から見れば被控訴人が鳥居龍次郎の請求を代位行使するとされ龍次郎は権利行使して居ないことになる。然るに判決正本当事者には「亡鳥居龍蔵訴訟承継人被控訴人鳥居龍次郎」と厳存他の被控訴人と同一の立場に立つ当事者である。左様で被控訴人等の中に右龍次郎が入つて居ないとすれば右龍次郎は何を請求して居るのか判然としない。又右龍次郎が被控訴人中に含まれて居るとすれば代位云々の理由意味が不明となる(龍次郎が自己を代位することはあり得ないから)左様でこの点についての原判旨は当事者を看過し代位の規定の適用を誤つた違法が存する。

第三点原判決は「龍蔵は前記借地権を以て昭和二十一年七月一日から五ケ年以後にあたる(昭和二十六年十月三十一日)時期に本件土地の所有権を取得した訴外阿部初音に対抗出来ないことは処理法第十条により明であるけれども」と認定し乍ら「その借地権はこれを以つて同訴外人に対抗出来ないに止まり消滅に皈するものではない」と判示して居る。然れども土地所有者初音に対し対抗主張出来ない借地権が他の人に対し借地権の主張が許されると云う理由はあり得ない。根本が無であるのにその枝葉が有となるとの事はあり得ない。殊に阿部初音に対抗出来ないと判示するのに他方被控訴人鳥居キミ、同縁子、同幸子が右阿部初音より更に昭和二十八年二月拾日贈与に依り本件土地所有権を取得した被控訴人鳥居龍次郎に代位して右三人がその借地権を保全する為右龍次郎に代位してなす本件被控訴人の請求を正当とした原判決は右判示から見れば初音(その地位承継者龍次郎)に対抗出来ない龍次郎、キミ、保子、幸子が対抗出来る借地権として之が保全の為対抗出来ない相方地位に立つ初音の承継者龍次郎に代位して対抗出来ない権利の保全の代位訴求をなすことを認めたこととなり換言せば一方では権利主張出来ないと認定し他方に於ては有効に権利主張出来るとして代位を認めることとなり、右判示は前判示を後の判示が権反するものとなる即ち右両判示は理由齟齬する不法な判決と云はねばならない。

第四点被災借家人の優先借地申出権の譲受人である上告人が当時の借地人の代理者であり後その土地の所有者となつた阿部初音が本件土地上に建物を建て居住し居るを充分了知し之を容認し同地上の一隔にある借地人龍蔵所有の書庫の保護見張りを頼みし事実同様事実を知悉し同書庫の保護見張りを右借地人龍蔵の右土地の管理人住友信託KKも上告人に委嘱し龍蔵皈朝後は書庫となりの二十坪を提供するから移転しては如何との申入もありしもので(詳細一、二審準備書面御参照乞フ)斯様な事実存するときは右委嘱の時に明示少くとも黙示の借地権か発生するものと解するが妥当である。居住を前提として委嘱が為された。居住を否定されれば委嘱もしなかつたであろうしもし委嘱されても上告人に於て受諾出来なかつたのである。居住はしても差支へないその代り書庫の番をして下さいとの相互利用の意思が合致して安住及見張り番が為されたのである。原判決はかくる事実あれば借地が発生して居るとの重大なる法律事実を看過し以つて被控訴人の主張を容認した違法が存すると云はねばならない。右理由に依り原判決は破毀さるべきものと云はねばならない。

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