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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1014号 判決 1956年4月30日

控訴人 松沢貿易株式会社 外一名

被控訴人 松本正雄

主文

原判決主文第一、二、三項を左のとおり変更する。

被控訴人の控訴人等に対する東京法務局所属公証人平山慎英作成第一三五、一七七号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基く強制執行は、遅延損害金中、元金百円につき一日金二十銭を超える部分についてはこれを許さず、又昭和二五年四月一日以降の遅延損害金中金一一五万円についても、これを許さない。

控訴人等その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人等の負担とする。

当裁判所が昭和三〇年六月一日になした強制執行停止決定はこれを取消す。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人等訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人から控訴人等に対する東京法務局所属公証人平山慎英作成第一三五、一七七号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基く強制執行はこれを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張<立証省略>は、すべて原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

被控訴人が控訴人等に対し、昭和二五年三月二三日東京法務局所属公証人平山慎英作成第一三五、一七七号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基いて、控訴人等所有の動産及び不動産を差押えたこと、右公正証書は控訴人等が被控訴人に対し手形金債務金百万円につき、連帯債務を負担せることを承認し、利息を年一割、支払期日を昭和二五年三月三一日とし、期眼後は遅延損害金として金百円につき一日金八〇銭を支払うことと定め、強制執行を認諾する旨の債務弁済契約を内容とするものであり、しかも訴外国島孝太郎が控訴人等の代理人として右契約を結んだ旨の記載があることは、当事者間に争のないところである。

しかるに、控訴人等は、訴外国島孝太郎に右のような契約を被控訴人と締結すべき代理権を与えたこともなく、控訴人等において右のような契約をしたこともないと主張するので考えるに、成立に争のない甲第一、三号証、乙第一号証の二、三、原審における被控訴人尋問の結果によりその成立を認めうる乙第一号証の一、第三号証と、原審証人国島孝太郎、福間豊吉の各証言並びに原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、被控訴人は控訴人等に対し、昭和二四年一一月一日金一〇〇万円を、利息年一割、支払期日同月末日、期限後は元金一〇〇円につき一日金八〇銭の割合による遅延損害金を支払う約束で貸付け、控訴人等は右の支払を確保するため、満期を右支払期日とする約束手形三通(金額五〇万円のもの一通、金額二五万円のもの二通)を振出し被控訴人に交付するとともに、満期前において公正証書を作成してもさしつかえないこと、期日に支払をしないときは直ちに強制執行をうけてもさしつかえないこと及び公正証書作成に当つては被控訴人において控訴人等の代理人を適宜選任してもさしつかえないことを承諾し、右の条項を記載した承諾書並びに公正証書作成に必要な控訴人松沢一郎及び控訴会社取締役松沢一郎の印鑑書と委任状を被控訴人に交付した。しかるに控訴人等は右支払期日にその支払をしないで、一ケ月の支払猶予を懇請してきたので、被控訴人はこれを承諾し、控訴人等は右各手形の書換をしたが、その後数回にわたり一ケ月ごとに右と同様の書換をくりかえし、昭和二五年三月一日に本件手形債務に対応する手形に書換え、その都度被控訴人は右承諾書、委任状及び印鑑証明書の書換交付をうけたところ、控訴人等は右各手形の満期(いずれも昭和二五年三月三一日)近くなつても、その支払があやぶまれてきたので、被控訴人は右承諾書の趣旨に基き、昭和二五年三月二三日訴外国島孝太郎を控訴人等の代理人とし、右委任状及び印鑑証明書を用い、当初の約束を内容とする本件公正証書を作成したものであることが認められ、原審並びに当審証人松沢幸一の証言及び原審における控訴人松沢一郎本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく信用することができないし、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

しからば、本件公正証書及びその内容である債務弁済契約はいずれも有効であるというべきところ、控訴人等は、遅延損害金として元金一〇〇円につき一日金八〇銭を支払う旨の前記約定は公序良俗に反し無効であると主張するので考えるに、本件公正証書による債務は約束手形金債務であるから、その不履行による損害金の特約については旧商法施行法第一一七条により旧利息制限法第五条の適用がないけれども、日歩八〇銭の損害金の特約は、当時の金融取引の実情からみても著しく高率であるから、特別の事情がない限り一定限度以上は公序良俗に違反し無効というべく、その限度は、原判決が認めたと同様日歩金二〇銭の範囲においては公序良俗に違反せず有効であるが、それを超える部分は公序良俗に反し無効と解するを相当とする。

次に、控訴人等は、同人等において被控訴人に対し、前記手形金債務の弁済として昭和二八年二月三〇日金一一五万円を支払い、その残額の債務の免除を受けたものであると抗弁するので考えるに、控訴人等が被控訴人に対し、右日時右金員を支払つたことは当事者間に争なく、原審における控訴人松沢一郎本人は、残額債権の免除を受けた旨供述しているけれども、右供述は、後記証拠にてらし、たやすく措信し難く、控訴人等の提出援用にかかるその他の各証拠によつても、いまだ前記抗弁事実を認めるに足りない。却つて成立に争のない甲第二号証、原審証人齊藤正雄、福間豊吉、当審証人平林庄太郎の各証言、原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、前記支払金一一五万円は、遅延損害金の内金として授受されたもので、被控訴人において本件公正証書に基く残額債権を免除したことはないことが認められるから、控訴人等の前記抗弁はこれを採用し難い。

しからば、本件公正証書に基く強制執行は、遅延損害金中元金百円につき一日金二〇銭を超える部分、及び昭和二五年四月一日以降の遅延損害金中金一一五万円については失当であつて、これを許すべからざるものである。

従て本件公正証書の執行方の排除を求める控訴人等の本訴請求は右認定の限度においては正当であるが、その余は失当として棄却すべく、原判決はこれと趣旨を同じくしないからこれを変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条、強制執行停止決定の取消及びその仮執行の宣言につき同法第五六〇条、第五四八条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊地庚子三 吉田豊)

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