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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1215号 判決 1956年6月05日

控訴人 鹿志村とみ子

被控訴人 鹿志村昇

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中『原告と被告との間に生れた長女喜代子及び二女栄子の各親権者を被告(反訴原告)と定める。』とある部分を取消す。控訴人と被控訴人との間に生れた長女喜代子及び二女栄子の各親権者を控訴人と定める。控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「(一)被控訴人は、昭和三十一年三月一日原判決中、控訴人と被控訴人とを離婚するとの部分につき附帯控訴権を抛棄したので、当審においては、離婚の部分は審判の対象となつていない。民法第八百十九条第二項の法意は、離婚が当該裁判所の審判の対象となつている場合にのみ裁判所は親権者を定め得るというにあるのであるから、本件控訴は棄却さるべきものである。(二)本件長女喜代子、二女栄子は既に意思能力を有しその意思に基いて現在被控訴人方に留つて被控訴人の親権に服しているのである。同人らが被控訴人方に連れて来られた方法が控訴人主張のとおりであるとしても、同人らの幸福を中心として考える場合、再び環境の激変を同人らに招来すべきではない。」と述べ、控訴代理人において、「(一)被控訴人主張の(一)の事実につき附帯控訴権抛棄の事実は認めるが、その余は争う。(二)、被控訴人主張の右(二)の事実は否認する。」と述べた外、原判決事実摘示記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

<証拠省略>

理由

控訴人は、その原判決に対する附帯控訴権の抛棄により原判決中離婚についての部分が確定し、当審においては、これにつき裁判をなし得ざるに至つたから、親権者を定める裁判もなし得ない、と主張する。

しかしながら、裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定めなければならないのであつて、(民法第八百十九条二項参照)この裁判は、判決主文に掲げてこれをなすのである。(人事訴訟手続法第十五条五項三項参照)これは、離婚の協議ができない父母に対し、協議で子の親権者を決めることを期待するのは、無理であるから、民法は、裁判所をして決定させることにしたのである。従つてたとい当事者双方において原判決の離婚の部分について不服なく、右部分について審判をなしえないからといつて、これと同時になすべき親権者を定める部分について審判をなしえないという理あるべき筈なく、このことは、離婚の裁判が確定すると、訴提起者は、十日以内に、裁判の謄本を添附して、その旨を届け出なければならず、その届出書には、親権者と定められた当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名を必ず記載しなければならないこと、(戸籍法第七十七条、第六十三条参照)及びこのことにつき民法は因より家事審判法、家事審判規則に何ら規定するところのないことによつてもうかがい知ることができるであろう。所論は、ひつ竟独自の見解に出づるものとして排斥する。

次に、親権者を定めることを求める控訴人の請求について判断するに、当裁判所は、原審とその判断を同じくするので、ここに原判決理由を引用する外、「当裁判所は、当審における証人広木亥之松の証言、及び控訴人、被控訴人各本人尋問の結果を参酌するも、原審における事実認定を変更し難く、原審の認定した事実関係に基けば、控訴人と被控訴人との間に生れた長女喜代子及び二女栄子の各親権者を被控訴人に定めるのが相当である。」と附加する。

よつて、控訴人の本件控訴を理由なしとして棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 草間英一 猪俣幸一)

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