大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2089号 判決

即ち当審鑑定人黒田清三郎の鑑定の結果によれば、原判決添附図面(イ)点において長久保山道より東に折れ長久保一六一二番の二に通ずる現存の小径は、地質並びに地形学的見地より考察するも相当古い道であると認められ、右小径及び長久保山道一帯は、大部分洪積層に属するため礫の混入がなく、常に雨水の浸蝕を受けたため、道路は箇所により二米以上も低下しているが、地質学的に視察すれば多少の天災地変で地形の変化することは稀であり、従つて前示(イ)点において分岐する現在の小径以外に控訴人等の主張の如く惣領分の北端と長久保山道との交点(鑑定書添附の鑑定実測図の実測点支1号点)から長久保山道より東に分岐し、同鑑定実測図実測点21号点において現在の小径に結びつくこととなるような推定道路が過去において存在したものとは認められない。そこで後に説明する如く一先づ前顕甲第五号証(公図)に図示されている惣領分の位置をしばらく度外視して、前記鑑定実測図の実測点4号点(原判決添附図面イ点に当る)を基準に、前顕甲第五号証の公図写(鑑定書添附参考図第三号と同一)に図示されている公道(長久保山道)と前記現在の小径との分岐点とを一致せしめ、両図面を対比するに、この点より北方に進む公道は大体一致するし、鑑定実測図実測点12点より13、14号点等の順(但し17、20点を除き)に23号点4号点(原判決添附図面イ点に当る)を順次結ぶ図形は略一致すること、及び右4号点から同3号点、2号点を経て1号点に至るまでの図形は、大体一致するが、その距離が相当相違している(公図の方が遙かに短い)ことが認められる。問題は飛地籍惣領分の位置的関係であるが、同鑑定人の説明によるも、従来同鑑定人が各種の地籍図帳を調査したところによれば、特種の事例を除き大部分は、飛地籍を公図上に表示する場合には、正確な位置的関係を深く考慮することなく、特に場所的所在の表示に重点を置き作図する結果、かかる差違を生ずることあるべきものと思料される点が多いので、本係争の事例も同様の事例と判断されるというのであるから、前顕甲第五号証に図示されている惣領分の位置記載は作図上の過誤であると推定するのが相当である。(中略)

尤も前示鑑定人の説明にもあるとおり、公図と雖もその精度如何により直ちに現地を検出することが困難な場合もあるが、公道等は比較的良好な精度を保つのが通例であり、甲第五号証の公図も、長久保山道とこれより分岐する小径(この小径の位置に格段の異動のないこと前説示のとおり)との分岐点を基準に現地と対照すれば、惣領分の位置的関係並びに右分岐点以南の長久保山道の彎曲部に至る距離的関係を除いては(かかる作図上の過誤を来したであろう理由については前説示参照)大体現地の地形と一致し、比較的良精度と認められるというのであるから、右分岐点より以北に位する本件両地の位置、境界を判定するには、原則として右関係部分につき良精度と認められる公図と対照してこれを定めるのが相当である。

ただ控訴人等訴訟代理人は法律上の意見として(一)民法第百七十七条は当事者間の法律行為による物権変動の対抗要件に関する原則規定で、取得時効の完成により不動産の所有権を取得した者は、右時効による所有権取得登記をしなくとも、これを以て登記を経たる当該不動産の新取得者にも対抗できると謂い、仮に然らずとするも(二)取得時効の起算点は時効の援用者において任意選択し得ると解すべきであると主張するから、これらの点につき一言附加する。

(一)の点につき甞て大審院は「不動産の取得時効の完成した後に、保存登記をなした前所有者からその不動産を買取して所有権の取得登記をなした者は、取得時効に因る取得登記の欠缺を主張することはできない」との趣旨を判示し(明治四十三年十一月十九日大審院判決)。結果において前記控訴人等の主張に合致した旧判例はあるが、元来民法第百七十七条は法律行為に因る物権変動のみの対抗要件についての規定でなく、原因の如何を問わず汎く一般の物権変動の対抗要件を定めた趣旨と解すべきものであつて、さればこそ前記判例はその後「時効に因り未登記不動産の所有権を取得したるも、その登記を受けない者は、時効完成後保存登記を受けた旧所有者より所有権を譲受けその登記をなした他人に対して所有権の取得を対抗することはできない」との趣旨を判示した大正十四年七月八日大審院連合部判決(判例集第四巻四一二頁参照)によつて変更せられたものであつて、同趣旨の判例はその後においても屡次存する(昭和十二年二月十八日、及び昭和十四年七月十九日同院判決参照)のであり、この点に関する控訴人等の前示(一)の見解には左祖することはできない。

(二)の点に関しては「時効完成の時期を定めるに当つては取得時効の基礎たる事実が法律に定めた時効期間以上に継続した場合においても、必ず時効の基礎たる事実の開始せられた時を起算点として計算し、これが完成の時期を決定すべきものであつて、取得時効を援用した者において任意にその起算点を選択し、時効完成の時期を或いは早く或いは遅くし、以て対抗要件の存在を不必要ならしめることを得ない」旨を判示した昭和十四年七月十九日大審院第三民事部の判例の存することは、原判決も既に引用するところであつて、(同趣旨判例として同院昭和十三年五月七日判決)当裁判所も右見解を支持するものである。

(斎藤 坂本 小沢)

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