東京高等裁判所 昭和30年(ネ)315号 判決
訴外アトマイザー株式会社は昭和二十八年七月七日被控訴人宛に(一)金額六万三千八百円、満期同年九月十五日、振出地東京都、支払地浦和市、支払場所株式会社協和銀行浦和支店とした約束手形一通、(二)金額六万三千八百円、満期同年九月二十日、振出地、支払地、支払場所いずれも右(一)の手形と同じ約束手形一通を振出したことは当事者間に争がない。もつとも右各手形の振出地はいずれも東京都となつていて、最小行政区劃の表示がないから、振出地の記載として適法とはいいがたいが、成立に争のない甲第一号証の一、二によれば、右各手形には振出人東京アトマイザー株式会社なる名称に東京都中央区入舟町一丁目一番地と附記せられていることが明らかであるから、手形法第七十六条第四項の規定により、右各手形は東京都中央区において振出されたものとみなさるべきである。
そして前掲甲第一号証の一、二、原審における被控訴人本人の供述によれば、後に説示するように本件各手形が振出された後に、控訴人においてその手形の表面に単純に署名捺印したものであることが認められるから、同法第七十七条第三項、第三十一条第三、四項の規定により、控訴人は右振出人のために右各手形に保証をなしたものとみなされること勿論である。
控訴人は、右署名捺印は被控訴人の要求によつて、本件各手形が右訴外会社において有効に振出したものであることを確認するためになしたものに過ぎず、同会社のために個人保証をなしたものでない旨抗弁するけれども、前説示のように約束手形の表面に単純に署名捺印したものは、手形法上振出人のために保証をしたものとみなされ、反証を許されないものというべきであるから、右抗弁は理由がない。
又控訴人は右各手形に署名捺印したことが、手形保証とみなされるとすれば、右署名捺印は前述のような趣旨でなしたものであるから、法律行為の要素に錯誤があつたものというべきであり、したがつて右手形行為は無効である旨抗弁するけれども、控訴人が右各手形にその主張のような趣旨で署名捺印したものであることは、これを認むべき何等の証拠なく、却つて前掲被控訴人本人の供述によれば、被控訴人は昭和二十八年七月四日控訴人がその代表取締役になつている訴外東京アトマイザー株式会社に物品を売渡し、その支払のために、同訴外会社から本件約束手形二通の振出交付を受けたので、訴外日本相互銀行浅草支店に右手形の割引を依頼したところ、同銀行において調査の結果、右東京アトマイザー株式会社はまだ正式に設立手続がなされていないし、信用もあまりないから、割引するには控訴人の個人保証が必要であるといわれたので、被控訴人は控訴人に対しその旨を告げ、右各手形に個人保証をせられたい旨申入れたところ、控訴人はこれを承諾して、前認定のように右各手形にそれぞれ署名捺印したものであることが認められるから、右抗弁も採用のかぎりではない。