東京高等裁判所 昭和30年(ネ)590号 判決 1955年8月09日
控訴人 ミユーチユアル・トラスト・カンパニー
被控訴人 ジヨゼフ・エドワード・モンタルト
主文
原判決を取消す。
本件を東京地方裁判所え差戻す。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。東京地方裁判所が昭和二十八年(ヨ)第四八四二号仮処分事件につき、昭和二十八年七月十日なした仮処分決定はこれを認可する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方事実上の陳述および証拠に対する関係は原判決事実の項に記載してあるとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
一件記録殊に甲第二十一号証ならびに原審における控訴人代表者ユー・ウイン・カム尋問(第一、二回)の結果を綜合すれば、控訴人は香港において英国法により設立せられたいわゆるパートナーシツプであつて、ユー・ウイン・カムおよびウオン・チユー・チヨイの両名がパートナーとなり前者の出資額二百万香港ドル、後者の出資額五十万香港ドル計二百五十万香港ドルの資本金を有し、外部に対し各パートナーは控訴人の債務につき無限責任を負担し、控訴人としての意思決定は形式上は多数決によることとなつてゐるが、その多数決は出資の比率によるから、実質的には八十パーセントの出資をしたユーによつて決定せられることとなつている一般輸出入業および鉱山業を目的とするわが民法規定するところの組合に酷似した組織体であるが、ユー・ウイン・カムがウオン・チユー・チヨイとの合意により控訴人を代表して一切の行為をなしうる権限を有し、かつ控訴人は香港政庁に対し事業登録をなし、外部に対しパートナーとは独立した経済活動をなしている事実明かである。かかるものは会社その他の法人に比し個人的色彩強くわが民法上の組合に近い性質を有する場合においても、民事訴訟法第四十六条にいわゆる「法人に非ざる社団にして代表者の定あるもの」に該当し、当事者能力を有するものと解するを相当とする。(大審院昭和十五年(オ)第三〇四号同年七月二十日の判決参照)したがつて控訴人に当事者能力がないとして、昭和二十八年(ヨ)第四八四二号不動産仮処分事件につき昭和二十八年七月十日なした仮処分決定を取消し、控訴人の仮処分申請を却下した原判決は失当であるから、これを取消す要がある。しかし事件の実体につきなお審理する必要があるから、本件はこれを東京地方裁判所え差戻すを相当と認め、主文のとおり判決した。
(裁判官 渡辺葆 牧野威夫 野本泰)