大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)803号 判決

控訴人は、本件調停においては地代は統制額に従うという合意が当事者間に成立し、本件宅地の地代の統制額は一箇月一坪につき金二円五十銭であるということであつたので、控訴人はこれを信じ前記条項を承諾したところ、その後調査の結果該統制額は一箇月一坪につき金九十銭であることが判明した。従つて本件調停は控訴人の錯誤に基いて成立したものであつて無効であると主張するから按ずるに、調停が成立したときは、その調停調書の記載は裁判上の和解と同一の効力を有するが、訴訟法上の和解が法律行為の要素の錯誤によつて無効となるか否かは専ら民法の規定に従つてこれをきめなければならない。而して民法の規定によれば争の目的とならなかつた事項で和解の要素をなすものについて錯誤があつた場合においては、もとより民法第九十五条の規定を適用すべきものであるが、苟くも当事者が和解によつて止めることを約した争の目的となつた権利関係に関して錯誤があつた場合には、単に和解契約特有の規定たる民法第六百九十六条の適用があるに止まり、前示民法総則の規定は適用がないものと解するを相当とする。

飜つて本件についてこれを見るに、本件調停に際しては、(一)被控訴人が本件宅地に対する当初の賃料たる一箇月一坪につき金十二銭を、昭和二十三年四月一日から金六十一銭に、昭和二十四年十一月一日から金一円に、昭和二十五年九月一日から金二円五十銭にそれぞれ値上する旨の意思表示をなしたことにより適法に該値上がなされたか否か並びに(二)控訴人が右値上額による賃料を支払わなかつたことを理由として被控訴人が本件宅地の賃貸借契約を解除したこと(成立に争のない乙第一号証の二によれば、被控訴人は前記訴訟において昭和二十八年三月十日限り解除となつたと主張している。)が適法であるか否かが問題となつた争点であつたこと並びにそれが当事者間において折衝の結果前記条項により調停が成立したものであることは当事者間に争がないのであるから、本件調停においては既に本件宅地の賃料が適法に一箇月一坪につき金二円五十銭に値上となつたか否かが争の目的となつていた事項であるから、右賃料額が統制額であるか否かに関する控訴人の錯誤が、本件調停における合意の要素の錯誤であるとしても、これについては上段説示のように民法第六百九十六条の適用があるに止まり、同法第九十五条の規定はその適用がないものといわなければならない。従つて本件調停が錯誤に基く無効のものとなすべき理由はない。

(渡辺葆 牧野 野本)

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