東京高等裁判所 昭和30年(ネ)915号 判決
控訴人訴訟代理人は前示法律上の見解に対し、縷々意見を述べるところあるも、公正証書の執行受諾の意思表示は強制執行による権利保護要件を形成し訴訟行為として公証人に対し有効になされることを要し、該公正証書に表示せられた他の私法上の契約の効力とは、区別して考うべきものであつて、後者につき民法第百十条の適用ある結果有効と解し得る場合と雖も、前者についてはその適用なく、当該公正証書の債務名義たる効力は否定する外はない。なるほど控訴人主張の如く、金銭貸借につき公正証書が作成される場合には、執行認諾条項が記載されることは取引の常識であり、公正証書の作成には公証人が介在するとはいえ、債権者債務者は、この取引の当事者として相対立するものであるから、右取引の保護という見地から、むしろ表見代理の規定の準用を認むべしとの論は、一応首肯できないでもないが、前説示の如く執行認諾の意思表示は、公証人に対する訴訟行為たる性質を有することはこれを否定し得べくもなく、特に取引の保護という見地から、公正証書による他の私法上の契約について前記法条の適用を認める外に、執行認諾の意思表示についてもこれを拡充せんとする主張には左袒できない。