東京高等裁判所 昭和30年(ネ)997号 判決
訴外神島化学工業株式会社が昭和二十二年十月八日登録出願をし、昭和二十四年三月二十五日右出願の公告がされ、同年十月八日登録された、第一類化学品薬剤及び医療補助品を指定商品する登録第三七八八八四号商標権を有していたこと、右商標が原判決添付目録第一に掲載された通りのものあることは当事者間に争のないところであつて、被控訴人が右訴外会社から昭和二十八年二月二十日に錠薬及びその類似品に対する右商標権を、更に同年七月三十日に右錠薬等を除くその余の右指定商品たる薬剤に対する右商標権を夫々有効に譲り受け、同年七月十六日及び十一月二十八日に夫々その旨の登録を了したことを一応認めることができるが、その理由は当審に於て新に本件にあらわれたすべての資料によつても右一応の認定を覆えすに足りないと言うことを附加する外は原判決中右と同旨の認定につき原審の説示したところと同一であるから、この点に関する原判決の理由を引用する。
而して控訴人が東京都台東区下根岸町五七番地に於て<省略>マルケイ、<省略>マルケイロートヂアス錠、<省略>マルケイホミカロート錠なる文字を表わした商標を附した錠薬を製造販売し、且右商標を附した錠剤商品及び類似商品に使用する印刷物、薬壜等を現に占有所有していることは当事者間に争のないところであつて又右商標が被控訴人の前記登録商標(原判決添付目録第一に掲載されたもの)と称呼を同じくし従つて相類似しているものと解すべきであつて、その理由も又原判決に於て説示されてあるところと同一であるから、この点に関する原判決の理由を引用する。控訴人は被控訴人の右商標の前記「マルケイ」なる称呼には特別顕著性がない旨抗争するけれども、すでに右商標が登録されている以上、右登録が確定した審判により無効とされない限り商標登録の要件たる特別顕著性を争うことは許されないものと解すべきであるから右抗弁は之を認容することができない。
然しながら成立に争のない乙第三十八、第四十五、第四十六、第五十三乃至第五十八号証、第六十及び第六十一号証、当審証人野宮定道の証言(第二回)により成立を一応認め得る乙第三十九、第四十七、第四十八、第六十二乃至第六十七号証及び当裁判所の一応真正に成立したものと認める乙第七十一乃至第七十三号証並びに原審証人平井元康、当審証人野宮定道(第一、二回)、近藤誠伍の各証言を綜合すれば、訴外国際製薬はその設立の日たる昭和二十一年七月二十四日頃から専らその一部の工場(下谷工場)に於て前記<省略>マルケイの商標を別段之と類似する前記登録商標の権利者の利益を害し、又は之を利用する意図に基ずかず使用し、之を施したマルケイロートヂアス、マルケイロートヂアスターゼ、マルケイビスミツト等の名称の錠薬その他の薬剤を製造し之を広く一般に販売して来たところ、昭和二十三年七月七日頃右工場(下谷工場)を同会社から分離して控訴会社として独立させることとなり、同年十一月二日控訴会社の設立と同時に(控訴会社設立の日が右の通りであることは当事者間に争がない)前記薬品の販売業と共に<省略>マルケイの商標を譲渡し、爾来控訴会社に於て引続き右商標を使用して右営業をして来たことを一応認めることができ、従つて控訴人が商標法第九条第一項により被控訴人の商標の登録出願前から善意で使用されていた右商標<省略>マルケイの譲受人として之を使用する権利を有する旨の控訴人の抗弁は理由あるものであつて前記登録商標権に基ずいて控訴人に対し右商標<省略>マルケイの使用禁止、及び右商標を使用した錠剤薬品及びその類似商品の販売禁止並びに之等商品に使用する印刷物薬壜等の執行吏保管を求める本件仮処分申請は理由のないこととなる訳である。
もつとも甲第五十一号証には国際製薬取締役茅野文彦及び茅野文平の名義を以て同会社が控訴会社に前記営業譲渡をしたことがない旨記載されてあり、右両名の名下に夫々その印影が存し、且右両名の印鑑証明書が貼付されてあることが認められるけれども、右記載内容は前記乙第六十二号証及び当審証人野宮定道の証言(第一、二回)に照らしたやすく信用し難いところであり、又前記乙第六十一号証によれば国際製薬が昭和二十三年七月二十八日厚生大臣に対し医薬品製造業廃止届を提出したことが認められるところ、控訴会社設立の日が同年十一月二日であること前記の通りであるから、控訴会社の創立前既に国際製薬の前記営業が消滅しており、従つて控訴会社に於て右営業を承継すべき理由がないように見えるけれども、営業の廃止たるには単にその意思表示がされただけでは足らず、その廃止の事実行為あることを必要とするものと解すべきところ、前記認定の資料に徴すれば右廃業届は国際製薬が前記の通り下谷工場を分離させることとなつたにつき右廃業の意思を厚生大臣に対し表示したに止まり、その後も控訴会社の設立に至るまで、前記商標を施した製品の販売行為をしていたものと一応認められるから、控訴会社の設立迄に右廃業が行われたものとはし難く従つて右廃業届がされてあることを以て前記商標及び営業の譲渡の事実の一応の認定を覆えすべき資料とすることはできない。
然しながら遠藤製剤、厚生医学社及び茅野製薬所が合併して国際製薬が組織されたことは当事者間に争のないところであつて、又成立に争のない甲第四十九号証によれば国際製薬設立の日が昭和二十一年七月二十四日であることを認め得るところ、成立に争のない甲第六十号証によれば、遠藤製剤がかつて<省略>の標章を使用して錠薬の製造販売をしていたことが一応認められ尚成立に争のない甲第五十三乃至第五十六号証及び第五十八号証によれば、前記国際製薬及び控訴会社の設立後なる昭和二十四年中まで遠藤製剤宛に法人税の納税告知がされ、又同会社名義を以て同税の納付がされて来たことが認められ、以上認定したところによれば被控訴人主張のように国際製薬設立後もその内部で遠藤製剤外前記合併した二会社が事実上独立しており、<省略>の標章を使用して行つた薬品の製造販売業は遠藤製剤の専行していたところであつて、従つて控訴会社が国際製薬から右標章を営業と共に譲り受けると言うことはあり得ないもののように認められる疑もないではないけれども、叙上当裁判所が一応認定して来たすべての事実に照らすときは控訴人に於て当裁判所の相当と認める金二十万円の担保を供することを条件として本件仮処分を取消すことが相当と認められる。