東京高等裁判所 昭和30年(ラ)38号 決定
抗告代理人は主文第一項同旨の裁判を求め、その理由として左記のように主張した。抗告人が原裁判所に提出した訴状では、抗告人と相手方間の東京法務局所属公証人中台三樹三郎作成第十五万五千九号の執行力ある公正証書に基く執行力の排除を求め、その訴訟物の価額を七万円として、それに対応する印紙を貼用していたところ、原裁判所の裁判長は昭和二十七年五月一日抗告人に対し、訴訟物の価格は右公正証書記載の債権額である金三千九百五十四万円に対応する印紙を加貼すべき旨の命令をだした。抗告人は考えた上、同月九日付で、その請求の趣旨を訂正して、「上記執行力ある公正証書に基いて相手方が抗告人所有の本件物件に対しなした強制執行はこれを許さない」と訂正した。しかして本件物件の価額は総計金六万九千余円である。従つて、右のように具体的の執行力の排除を求めるものに訴を変更したのであるし、その変更した本訴の訴訟物の価額は金七万円に満たないものであるから、抗告人の当初訴状に貼つた印紙で十分なのである。しかるに、原裁判所の裁判長は、抗告人が上記命令に反し印紙を追貼しないことを理由として、本件訴状を却下した。右命令は上記のような理由で違法であるから、これが取消を求めるため本件抗告に及んだのである。
本件記録によれば、抗告人主張の事実は全部認めることができる。抗告人の訴状に記載したような訴であれば、訴訟物の価額は執行力の排除を求める債務名義に表示されている債権額によつて算定すべきであるから、原裁判所の裁判長がなした印紙を加貼すべしとの命令は正当であるが、抗告人はその後その主張のように具体的の執行力の排除を求めるように請求の趣旨を訂正して訴を変更したのである。右訴の変更は請求の基礎が同一であるから、元より適法なものである。そうであるとすれば、本訴は、右のように変更された新請求のみになるのであり、その訴訟物の価額は、具体的執行の排除を求める執行の目的物の価格によつて算定するを相当とする。その目的物の価額は抗告人主張のように金七万円に満たないものであるから、本訴の印紙は不足がないものといわなければならない。よつて本件訴状を却下した原決定は失当であるから、これを取消し、本件を千葉地方裁判所へ差戻し、主文のように決定する。