東京高等裁判所 昭和30年(ラ)55号 決定
よつて按ずるに抗告人は、抗告人に対し法務省横浜入国管理事務所長主任審査官山本紀綱(相手方)の発した外国人退去強制令書による行政処分を違法としこれが取消を訴求するとともに右退去強制令書にもとずく執行を一時停止すべきことを求め、原裁判所は「但し強制退去処分のためにする収容、日本国内に於ける護送はこの限りでない」との留保をもつて右退去強制令書にもとずく執行を一時停止すべきことを命じたものであることは記録上明らかである。すなわち原決定は右留保にかかる分については抗告人の申請を却下したものと解すべきであり、本件抗告はこの部分の取消を求めるにある。
しかし行政事件訴訟特例法第十条第二項によれば行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴の提起があつた場合において裁判所が申立又は職権をもつて処分の執行を停止すべきことを命ずるのは、処分の執行に因り生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があると認めるときに限ることは明らかである。出入国管理令にもとずき発せられた退去強制令書による執行はその令書に記載された送還先への送還、直ちにその送還ができないときは送還可能のときまで所定の場所への収容、それらのためにする護送を含むものであるところ、国外の送還先への送還が執行せられるときは、右行政処分取消の訴訟が勝訴の結果を得ても事実上償うべからざる損害をこうむるものというべきことは明らかであるが、これに反してその余の収容護送の執行は固よりその人の自由に対する拘束であるけれどもそれによつてこうむる損害は送還に比すれば軽度のものというべきである。
すでに退去強制令書の発付は法定のきわめて愼重な段階を経てなされるものであるが、しかもこれが違法な処分として取消されるとすれば、その間の収容護送処分による損害については別に救済の方法があるものというべきである。したがつてこれらの執行はこれを停止しなければ償うべからざる損害を生ずるものとは解し得ない。原審がこの部分の申請を却下したのは違法ではない。