東京高等裁判所 昭和31年(う)11号 判決
被告人 野牧嘉久義
〔抄 録〕
弁護人の控訴理由は、末尾に添附する控訴趣意書(控訴趣意補充陳述書を含む)に記載するとおりである。
ところで、原判示にかかる公文書偽造、偽造公文書行使並びに詐欺の事実は、すべて、原判決の挙示する照応証拠によつて、優に、証明することができ、記録を精査し、更に当審において証人を取り調べた結果に徴するも、原判決の事実の認定に誤ある廉は見い出されない。被告人が判示公文書を偽造するに至つた動機が、判示のごとき計画の下においてではなく、ただ、本州製紙株式会社との間に本件山林に関して紛争が起きた場合にその境界線を判示下栗部落側に有利に決めることのできるための証拠物件とする意図の下においてのみであつたとしても、その意図たるや、刑法第一五五条第一項にいう行使の目的に該ること、もとより、いうまでもない所であるから、この点において原判決に所論のごとく事実の誤認ありとしても、該誤認を目して判決に影響を及ぼすものというに由ない。しかも、右偽造が被告人の創案にかかるものではなく、所論の村長山崎頼母の言に暗示された結果であるとしても、被告人において法律上の責任を免れることにはならないのであるから、原判決が右公文書偽造の所為をもつて、刑法第一五五条第一項後段の規定の適用を受けるものとして判示したとて、何等違法とすべき筋合ではない。それ故に、論旨第一点の所論は採用しがたく、該論旨は理由がない。
(中野 尾後貫 堀真)