東京高等裁判所 昭和31年(う)1163号 判決
被告人 鳴海昭二
〔抄 録〕
一、弁護人論旨第二点について。
原審第一回公判期日に所論の証拠たる(1)被告人の司法警察員に対する昭和三一年二月四日附供述調書二通(五枚綴のものと一二枚綴のもの)、(2)被告人の検察官に対する昭和三一年二月一五日附供述調書一通、(3)被告人の身上照会書および前科調書の証拠調がなされ、又同第二回公判期日には、(4)若林四郎および井崎宏の各司法警察員に対する供述調書の証拠調がなされたが、右各期日には右各取調後に他の証拠の取調も行われたこと所論のとおりなるは記録上明らかである。これにつき所論は、右(1)ないし(4)の諸証拠は被告人の自白を内容とするものであるから、これらの証拠が他の証拠よりも先きに取り調べられたのは刑事訴訟法第三〇一条の規定に違反するものなる旨主張するものであるが、元来同法条の趣旨は、要するに、被告人の自白を内容とする証拠をそれ以外の証拠よりも先順序に取り調べることによつて事件につき予断を抱くに至ることを防止するにある。従つて、その証拠の内容にして自白に関係ないものは右法条の適用を受けることのないのは勿論であり、たとい自白を内容とする証拠についても、その取調以前既に右自白の補強証拠たるべき他の証拠が取り調べられているときは右予断防止の措置は既に採られたのであるから、その後は自白を内容とする以外の証拠全部が取り調べられることのない場合にも同自白を内容とする証拠の取調をなすことは前記第三〇一条の規定に違反するものではない。
而して此の点よりみれば、まず前記(3)の身上照会書および前科調書、はその内容が自白ではないから、右第三〇一条の適用を受けないことは明らかであり、次に、前記(1)、(2)および(4)の各供述調書(原審第一回公判調書添綴証拠関係目録記載の甲一六、一八、二二、二四、二五)は、孰れも被告人の自白を内容とするものではあるが、それらの証拠調に先立ち井崎宏の被害届および井崎宏の検察官に対する供述調書(前記証拠関係目録記載一、六)の各証拠調がなされ而も右先順序の両証拠の内容は右(1)、(2)および(4)の各証拠の自白内容の補強証拠たるに十分なるのみならず、右(1)の各供述調書は原判決において認定事実の証拠として引用されてもいないのであるから、右(1)ないし(4)の各証拠調は所論のように刑事訴訟法第三〇一条に違反して判決に影響すること明らかな訴訟手続上違法のものとなすべき事柄ではない。論旨は理由がない
(久礼田 武田 内海)