大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)1590号 判決

被告人 妹尾正一

〔抄 録〕

弁護人の控訴の趣意第一点について。

記録を調査するに、坂尻均の司法警察員に対する供述調書の記載によれば、被告人が原判示第二の(1)の詐欺の犯行に際し、坂尻均に対して原判示のように「雪が降つていてオーバーなしでは恰好が悪いからオーバーを貸してくれ、一時間位で返すから」と申し向けた事実を認めることができる。しかし右供述調書には坂尻均の供述として、妹尾は時々遊びに来ている人であり、碓井の親類と聞いているので別に不思議に思わず、オーバーを貸してやることを承知し、一時間で必ず持つて来てくれと念を押して貸してやつた、この時すつかり信用して、オーバーの中に入つている革手袋、米穀通帳、都電定期券等をそのまま渡してやつた旨の記載があり、また被告人の司法警察官に対する供述調書(昭和三十一年二月十七日付)には、同人の供述として、坂尻は快よくオーバーを貸してくれたが、借りたオーバーのポケットの中には茶革の手袋、都電定期券、米穀通帳が入つていた旨の記載があるから、これらを綜合すると、坂尻均は一時間位で返還を受けるものと誤信して右革手袋外二点の物品がポケツトに在中していることを知りながらそのままオーバーを被告人に交付したものであり、被告人はまたオーバーの交付を受けるとき、そのポケツト内に右三点の物品が在中していることに気がついていたのであるが、その場でこれを坂尻均に返還せず、同人の右錯誤に乗じ、オーバーと共にそのまま受け取つたものと認めることができる。然らばたとえ被告人が坂尻均に対し、原判示のように、オーバーのみ借り受けたいという趣旨の言葉を用いたにしても、被告人には、坂尻均の錯誤に乗じ、オーバーと共に右革手袋外二点の物品をも同時に騙取しようとする犯意があり、かつこれを実行したものと認むべきであるから、結局原判決に挙示する右各証拠により原判示第二の(1)の犯行は十分証明し得るものというべく、原判決には所論のような審理不尽または理由不備の違法はいささかも存しない。論旨は理由がない。

(谷中 坂間 久永)

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