東京高等裁判所 昭和31年(う)1607号 判決 1957年3月04日
控訴人 原審弁護人 神谷安民
被告人 宮本政一こと金点満 弁護人 松本善明
検察官 佐藤豁
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役四年に処する。
原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、末尾に添附した弁護人松本善明提出の控訴趣意書に記載したとおりである。
弁護人の控訴趣意第三点について。
本件起訴状に「死ぬかも知れないと認識しながら」とあるを、原判決において「殺害するにしかずと決意し」と認定したことは所論のとおりであるが、右はいずれも殺人の故意であることに変りはないのであるから、原審が右の如く認定するにつき訴因の変更を要するものではなく、従て原審の訴訟手続には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)
弁護人の控訴趣意
第三点原審は訴訟手続に法令違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすこと明らかである。
本件起訴状(二丁)は犯意について「死ぬかも知れないと認識しながら」と未必の故意を主張しているが、原判決は「殺害するにしかずと決意し」と無条件に故意を認めている。後者は被告人の罪責を重からしめるものであることは明らかであり、かかる罪責を認めんとする場合訴因の変更をなさねばならない。何となればもし訴因が原判決のように変更された場合被告人弁護人は故意に関して極めて大きな注意を払うであろうこと、場合によつて仮定的主張として未必の故意を主張するための弁論もするであろうからである。本件の場合が防禦に実質的不利益を及ぼす不意打であることは明らかである。
(その他の控訴趣意は省略する。)