東京高等裁判所 昭和31年(う)1880号 判決
被告人 小林正武
〔抄 録〕
控訴の趣意第一点について。
原判決の冒頭及び第二、第三の各事実認定に採用している各証拠によれば、株式会社東京相互銀行横浜支店から同支店小田原業務取次所へ送付された原判示第二、第三の各小切手は、同銀行と原判示石井英之助及び磯崎正造との間の相互掛金契約に基く貸付金に充てるためのものであつて、右小田原業務取次所において右小切手を現金化し、同人等にこれを交付するまでは、右小切手又はこれを現金化した金員に対する権利者は同銀行であり、被告人は小田原業務取次所主任たる身分において、同銀行のためにこれを業務上保管していたものであることが明らかである。してみれば、被告人が、右貸付金の保管中に、同銀行の承諾なくして、石井英之助及び磯崎正造に対する自己又は第三者の貸金弁済に充当するため、保管金の一部を任意に処分する権限はないものといわなければならない。たとえ所論のように、石井英之助及び磯崎正造において、右貸付金の交付を受ける前に、被告人に対し、自己の債務の弁済のためこれから一部控除することを承認したとしても、同人等は被告人の保管中の右貸付金に対しては、何等の処分権を有しないものであるから、同人等の承諾により、被告人がこれを処分する権限を取得するいわれはない。故に原判決が原判示小切手金額の全額について業務上横領罪の成立を認めたことは至当であつて、論旨は理由ないものである。
(谷中 坂間 久永)