大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)1904号 判決

被告人 山田益男

〔抄 録〕

一、弁護人の控訴趣意第一点について。

窃盗罪において奪取行為の目的となる財物とは、財産権殊に所有権の目的となりうべきものをいい、それが金銭的ないし経済的価値を有するやいなやは問うところでないので、(最高裁判所昭和二四年(れ)第三〇五六号同二五年八月二九日第三小法廷判決参照)本件の場合原判示第四の窃盗行為の目的物の判示としては別表(窃盗犯行の一覧表)(三)久能山東照宮分として品名、数量を表示すれば足り、時価見積金額を明示する必要はなかつたのである。しかしながら本件ばかりでなく、強窃盗はもとより詐欺、恐喝等の財産罪において被害物を判示する場合時価相当の価格を表示するのを通例とするが、これは当該事犯の罪質、情状等の参考とするにすぎないのであつて、その構成要件をなすものでない。従つてその価格たるや裁判所において一見して不当のものと認められない限り、被害届や被害者の供述等に現われているものをそのまま表示するのを例とし、敢えて価格についての鑑定を求めるようなことはしないのである。いま本件についてこれを観るにその被害品の時価は久能山東照宮禰宜竹下七郎作成名義の答申書の記載によつたものではあるが、いずれも重要文化財或いはこれと同等の価値あるものだけに時価に見積ることは一寸困難で、宮司仁科寿玄等に相談して一応仮に付けた価格である旨答申しており、かような価値のある物はこれを蒐集しようと熱望する者にとつては恐らく右表示の価格以上の価値を有するものとして愛惜する場合もあるであろう。これを何ら客観性なき竹下七郎個人の主観的評価であつて根拠なきものと論じ去るのはむしろ妥当を欠く所論というべく、原判決が右竹下七郎作成名義の答申書の記載を証拠として判示第四の被害品の時価を表示したことは被害品の判示としては相当なるものというべく、原判決には審理不尽ないし事実誤認等判決に影響を及ぼすべき瑕疵は認められないので論旨は理由がない。

二、同控訴趣意第三点について。

盗賍を被害者に還付する言渡をする場合、その還付を受けるべき被害者は、必ずしも、判決の事実摘示において被害物件の所有者として指示された者であることを要しないことはすでに最高裁判所の判例(最高裁判所昭和二三年(れ)第九九八号、同年一二月一一日第二小法廷判決参照。)とするところであつて、刑事訴訟法第三四七条に規定する被害者とは賍物の所有者ばかりでなく、権原により賍物を保管または管理する者もこれに含まれると解すべく、裁判所が事案の性質等に鑑み、所有者でなく、右の保管者または管理者に還付すべき理由が明らかであると判断した場合は、これらの者に還付し得るのであつて、その理由を特に判示するを要しない。けだし右の賍物に利害関係を有する者は別に民事訴訟法の手続に従いその権利を主張することを妨げない旨同条第四項に規定する趣意からもこれを窺うことができるからである。そこで記録を精査し原判決を仔細に検討するときは、原判決は所論のように短刀一口(原庁昭和三一年領第二三号の二〇)を葛城貢個人に還付したものでなく、金剛山葛木神社の宮司たる葛城貢に還付したものであつて、同人は同神社の宮司として本件短刀を保管すべき正権原を有する者であることが明らかである。原判決は単に主文において葛城貢が右神社の宮司であることを明示しなかつたにすぎない。元来判決の主文は理由において説示したところを要約して形成された一定の法律的効果をもつ裁判所の意思表示であるが故に、その意思表示は極めて簡潔に法律的効果だけを表示すべきものであつて、葛城貢が右神社の宮司であることまで表示するを要しないものと解するを相当とする。すなわち論旨は理由がない。

(工藤 草間 渡辺好)

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