大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)2287号 判決

被告人 石田勝之助

〔抄 録〕

論旨第二点について。

原判決の認定した被告人の業務上過失致死の事実は原判決引用の証拠によりこれを認めるに足り、記録を精査検討し当審における事実取調の結果に徴しても、原判決の右事実の認定が所論のように誤認であるとは認められない。被告人がチャールス・イー・クレーンの運転する自動二輪車を発見した際の同人の進行地点は約一五〇米後方の地点であるとの被告人の司法警察員に対する第一回供述調書中の供述が措信し難いことは既に説明したとおりである。道路交通取締法第一二条第一項によれば自動車は他の交通を妨害する虞ある場合においては転囘することを禁止されているものであり、かかる虞のない場合に転囘するに際しては転囘が右折によつて行われるのであるから右折の際の注意義務がこの場合に類推適用されるものと解するを相当とすべく、従つて自動車の運転に従事する者が転囘する場合においてはあらかじめ手、方向指示器等で合図をし(道路交通取締法第二二条、道路交通取締法施行令第三六条第一項第二号)、進路の側方あるいは後方の車馬に対する安全を確認しその他車体の周囲の交通に対し注視し、直進してくる車馬又は軌道車があれば原則としてこれに進路を譲つて一時停車又は徐行する(道路交通取締法第一八条の二第一項本文)等事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものといわねばならない。そして原判決引用の証拠によれば、被告人は原判示日時ニューグランドホテル前道路上において自己の運転する小型乗用自動車を一時停車して客を乗せ、山下橋方面にU字転回しようとして右折の方向指示器を揚げ低速度で発進し道路中央寄りに約二・一米進んだ際右後方山下橋方面約六〇米の地点からチャールス・イー・クレーンの運転する自動二輪車が接近してくるのをその前照灯により発見したことを認めることができるのであるから、このような場合には自動車運転を業とする被告人としては方向指示器を揚げて転回の合図をするだけでなく、自己の運転する自動車の左右の安全を十分に確認し、殊に夜間であるから直進してくる車があればこれに万全の注意を払い、一時停車してこれに進路を譲る等事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのである。しかるに原判決引用の証拠によると被告人は接近してくるチャールス・イー・クレーンの運転する自動二輪車に対する確認を十分にしないで、目測を誤り、漫然右自動二輪車と自己の運転する自動車との間に相当の余裕があるものと速断し、右自動二輪車の通過する前に自己の運転する自動車が転回してしまえるものと軽信し、左方すなわち神奈川県庁方面から接近する自動車にのみ注意を奪われ、右方すなわち山下橋方面に対する注意を怠つて転回を続けたため、右自動二輪車が十数米の手前に迫つたときこれに気付いて直ちに急停車の措置を執つたが既に遅く、右自動二輪車を自己の運転する自動車の右前側面に接触させ、その反動で右自動二輪車の後の席に乗車していたノーマン・イー・クレーンを路上に転倒させ因つて同人を頭蓋骨折により死亡するに至らしめたことを認めることができるのであるから、被告人はノーマン・イー・クレーンを死に致したことにつき業務上過失の責を免れることができないものといわねばならない。又被告人がU字転回しようとして道路中央寄りに約二・一米進んだ際、チャールス・イー・クレーンの運転する自動二輪車が被告人の運転する自動車の右後方約六〇米の地点から接近しつつあることを夜間前照灯により発見した本件のような場合においては、転回しようとする被告人の側において道路交通取締法第一八条の二第一項本文の類推適用により一時停車するか又は徐行して右自動二輪車に進路を譲るべきであることは前記のとおりであり、同条第一項但書の規定する安全に通行できると合理的に判断される場合にあたるものとは認められないのであるから、左折し又は右折する車馬の追越の場合の規定である所論の道路交通取締法施行令第二七条は本件の場合に適用されるべきでないことは当然であり、本件事故の発生についてチャールス・イー・クレーンの側において所論のような過失の責任があるとしても、これによつて被告人に本件事故の発生につき業務上の過失の責任があることを否定することはできない。しからば原判決の事実誤認を主張する論旨も亦理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

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