大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)2294号 判決

被告人 孫分基

〔抄 録〕

事実誤認の論旨について按ずるに、原判決は予備的訴因を採用して判示事実を認定したのであるが、記録及び当審でした証拠調の結果を綜合すると、被告人は藤原富美子から再三覚せい剤を世話してくれと頼まれ、利益を得る目的で昭和三十年十一月十六日頃台東区上野所在親善マーケツト内で朝鮮人某より覚せい剤約百瓦を代金一万五千円で買い受け、翌十七日頃これを原判示藤原方に持参し、情を知らない姜福順を介し藤原に売り渡す目的で同人の代理人である小林年に原判示覚せい剤を手交させた事実を認めることができる。論旨は原判決は藤原富美子を介し小銭龜代次に譲り渡したと認定しているが、買受人たる小銭が現品を受領しないうちに検挙されたのであるから未遂であると主張するけれども、被告人としては藤原の依頼により同人に売り渡す目的で同人の代理人小林年に手交したものであることは前記説明のとおりであるから、小銭に対する譲り渡しの未遂を以て論すべき限りでない。尤も記録によれば被告人は藤原が小銭より右覚せい剤の入手方を依頼されていたのであり、従つて同人が更に小銭に譲り渡す予定であることを知つていたことは窺われるが、被告人としては前記のとおり藤原の依頼により同人に譲り渡す目的であつて、取引の相手方は藤原であり、藤原がその後更に小銭に譲り渡すかどうかということは全く藤原の自由意思に係り、被告人の関知しないところである。而して覚せい剤取締法第十七条にいわゆる覚せい剤の「譲り受け」又は「譲り渡し」とは売買による所有権の移転を目的として覚せい剤を授受した場合に限らず、かかる目的を伴わない授受をもこれを包含するものと解するを相当とする。故に本件は被告人が藤原の代理人小林年に対し覚せい剤を譲り渡したという主たる訴因を認定すべきである。然るに原判決が姜福順をして藤原の代理人小林年に対し原判示覚せい剤を手交させ、以て藤原を介し小銭に譲り渡したと認定したのは、私法上の効果と刑事責任とを混同した結果事実の認定を誤つたものといわなければならない。しかしこの誤は原判決の認定した事実よりも法律的評価の上において縮少した事実を認定すべきであるというに過ぎず、而も犯罪構成要件たる事実関係そのものには変りはなく、従つてこれに対する罰条にも何等変りがないのであるから、結局判決に影響を及ぼすことが明らかな場合には当らないものというべきである。それ故論旨は理由がない。

(大塚 渡辺辰 江碕)

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