東京高等裁判所 昭和31年(う)2381号 判決 1956年11月22日
控訴人 被告人 松田武市郎
弁護人 青木定行
検察官 大平要
主文
本件控訴を棄却する。
当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人青木定行及び被告人本人各作成名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用し、これに対して次のとおり判断する。
被告人の控訴趣意第二点について。
所論は、本件毀棄罪の客体たる物件は、「田に生育したれんげ草」であつて、これは「器物」として認めることができないものであるから、被告人の本件所為によつて毀棄罪は成立しない旨主張するにより、案ずるに、記録によれば、本件は、起訴状の罪名並びに罰条に、器物毀棄刑法第二百六十一条と記載されてあつたところから、事件名も器物毀棄被告事件となつているのであるが、右刑法第二六一条には、「前三条ニ記載シタル以外ノ物ヲ損壊又ハ傷害シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金若クハ料料ニ処ス」と規定しているのであつて、「器物」ということばは使用していないのであるところ、本件犯罪の客体たる「田に生育したれんげ草」は、右刑法第二六一条において指示する前三条に記載した物即ち、一、公務所の用に供する文書、二、権利、義務に関する他人の文書、三、他人の建造物又は艦船のいずれにも該当せず、それ以外の物であることが明らかであつて、まさに右刑法第二六一条所定の物件に該当するものと認められるのであるから、原判決において、被告人が、右れんげ草の生育する水田を馬耕することにより、これを掘り返して、もつて同れんげ草をして事実上本来の目的の用に供することができない状態に至らしめた本件所為に対し同法条を適用したことは、まことに相当であるというべく、この点についてもまた、原判決には所論の違法は存在しない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)
被告人松田武市郎の控訴趣意
第二点当被告事件の器物とあるは「田」に生育した「れんげ草」であるからこれは器物として認めることは出来ない。
(その他の控訴趣意は省略する。)