東京高等裁判所 昭和31年(う)2529号 判決
被告人 金大龍
〔抄 録〕
論旨は被告人の本件所為は刑法上の緊急避難にあたるものであると解し、その理由として被告人は当日、在日朝鮮人総連合会杉並支部総務部長として旧正月の挨拶を兼ね、その活動管轄内である同区成宗部落の宋文淑方に赴いたところ、偶々同家において賭博が開張され、賭者仲間のうち新宮周市が勝ち進み、そのまま賭博を継続すれば賭博の相手である部落の連中は所持金を捲きあげられ、直ちに家族の生活に影響するものと考え、この部落民の財産に対する現在の危難を避けるためには、賭博を中止させると共に勝者のかち得た金員を敗者に返還させる以外に方法はないので、勝者たる新宮から同人のかち得た現金一万三百五十円を被告人へ交付させたに過ぎない旨主張する。しかしながら所論事実関係を以てしては、未だ刑法第三十七条第一項にいわゆる他人の財産に対する現在の危難が存するものとは断じ得ないので、所論はその前提を欠くものとして排斥するの外はない。
(谷中 坂間 荒川)
註 本件破棄は量刑不当。