東京高等裁判所 昭和31年(う)2788号 判決
被告人 伴野義夫 外四名
〔抄 録〕
原判示の認定した犯罪事実は、被告人角田は、昭和三〇年六月一四日法律第二一号による競馬法の一部改正の結果、従前容認されていたいわゆる「場外馬券取次業」が、全面的に禁止されるにいたつたにもかかわらず、このことを熟知しながら敢えて、馬事振興会連合会の名をかりて、脱法的私利をはかろうとくわだて、伴野義夫、松谷兼吉、李宗華、洪性、市川得三及び高学文等と共謀の上、別紙犯罪一覧表(二)記載のごとく、昭和三〇年一二月三〇日から同三一年一月二六日までの間に、木更津市木更津一六四番地相模屋こと近藤須美雄方において、前記連合会木更津出張所なる名称の事務所を設け、その都度折柄施行中の各地方競馬の競走に関し、森登等約二、六四六名から、連勝式勝馬投票券合計約一、一〇〇〇枚の購入方委託を受け、投票券一枚につき一一〇円(投票券面額に手数料として一〇円を加算したもの)の割合による金員を徴収し、これと引き換えに購入委託者に対し、それぞれ右委託を受けたことの証たると同時に、該委託者が勝馬投票の的中者となつた場合には、競馬主催者がその競走の的中者に払い戻す金額と同一の金額を支払うべきことの証として、依頼書と題する投票番号等特記の証票合計約二、六四六枚を交付し、よつて現実には委託どおりの購入をせず、万一的中者となれば、これに自己資金をもつて払戻金と同一の金額を支払うが、さもないときには、そのまま徴収金を利得してしまう方法によるいわゆる「呑み行為」をし、もつて、購入委託者に勝馬投票類似の行為をさせて利を図つたものであるというのである。しかして右各別表に掲げられた地方競馬名、犯罪年月日、購入委託者氏名は両者一致するところであり、購入依頼者の人数及び依頼書交付枚数は一致しない部分もあるが、起訴状別表の右人数及び枚数については原公廷において原判決別表のごとく訂正せられたところである。ところで、右起訴状記載の公訴事実を検討してみると、それは単に業として勝馬投票券の購入の委託を受け、又は財産上の利益を図る目的をもつて不特定多数の者から勝馬投票券の購入の委託を受けた事実ではなく、また日本中央競馬会、都道府県又は指定市町村以外の者が、勝馬投票券その他これに類似するものを発売して、競馬を行つた事実でもなく、まさしく地方競馬の競走に関し勝馬投票類似の行為をさせて利を図つた事実につき被告人角田の処罰を求めたものとみられるのである。であるからよしや同起訴状記載の公訴事実の末尾に競馬を行つたものであると記載されてあり、罰条の部分に競馬法第三〇条第一号と記載されていて、一見同法第一条第三項の規定に違反した事実を公訴事実の内容とするがごとくであるとしても、右末尾の辞句は余計なものであり、公訴事実に対する検察官の罰条の記載は全く誤れるものであつて、原判決摘示のごとく競馬法第三〇条第三号が正当であることは論をまたないところである。しかり而して、原判決が被告人角田につき認定した犯罪事実と同被告人に対する公訴事実とを対比するに、前説示によつて明らかなごとく、その基本たる事実においては両者同一性を失うものではないのであつて、ただ起訴状において、検察官が罰条の記載を誤つたものであるが、右起訴状と原判決記載の各罰条はいずれも競馬法第三〇条に定むるところであつてその法定刑を同じくするものであるから、右起訴状の罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞のないものというべく、公訴提起の効力に影響を及ぼすものではない。果して然らば、原判決に審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をした違法は存しないのであつて所論は排斥するの外なく、該論旨は理由なきものである。
(中野 尾後貫 堀真)