東京高等裁判所 昭和31年(う)3168号 判決
被告人 早川斉 外一名
〔抄 録〕
裁告人早川斉の弁護人A、同Bの控訴趣意第一及び第二点並びに被告人細川四郎の弁護人Cの控訴趣意第一点について。
原判示第一の事実は、原判決挙示の証拠によりこれを認めることができ、記録及び当審事実取調の結果によるも原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の過誤はないところ、同証拠によれば、東京都台東区の浅草寺から雷門に通ずる参道に存在する本件にいわゆる浅草仲見世なる工作物は明治六年以来関東大震災や戦災などによつて焼失したこともあつたが、東京府、東京市の所有歴を経たる後東京都制施行以来も同都の所有財産として同都においてこれが存立維持のための改造、修理やこれが使用の許可、使用人の営業種目の変更、権利の譲渡など、これが工作物に関する存立維持使用等に関する一切の事項につき管理して来たものであるが、同工作物は東京都指定の公園地である浅草公園用の工作物とされた結果、右管理事務は従来同都指定の公園関係の事務を司掌する公園課(昭和二十七年十一月一日以降は東京都建設局公園緑地部管理課公園第一管理班)の所属事務とされていた関係から、昭和二十六年十月同都の告示によつて浅草公園の公園指定が解除された後においても引き続き同管理は、右公園課ないしは右管理班において司掌して来たものであつて、被告人細川四郎は同都事務吏員として早くから右管理事務に掌つていたものであるが、昭和二十八年三月以降は特に、右公園第一管理班長として前示管理事務等同班所属の所掌事務全般を統括するの職務権限を有していたものであることが明らかであるから、所論の如く右浅草仲見世の本件屋根改修工事や外壁補修工事がたとえ、浅草仲見世商店会からの東京都に対する寄附工事であり、同工事施行の請負契約の締結自体は、同商店会直接の選定にかかる請負人と同商店会との間の直接の関係であると共に、同時に右各工事施行の許可ともなるものと見られる同工事寄附願受領許可の最終の決定権が東京都知事にあつたとしても、右各工事は、いずれも、同都の所有財産たる工作物に対する改造、修理の工事であつて、これが工作物に対する前示の如き管理の職務権限を有する前示管理班の班長として(殊に、東京都に対する右各工事寄附願書には、当該工事請負人―被告人早川斉―提出にかかる早川工務店名義の工事仕様書及び工事見積書が添附され、被告人細川四郎は、右管理班長としてこれが寄附願受領の可否に関する俗にいわゆる持廻決裁における関与者の一人であつたことの証拠上明らかなことにも徴し)その請負人の選定如何は決して被告人細川四郎の前示職務に直接する事柄として関係のない事項であつたというを得ないばかりでなく、当該工事請負人に対し、その依頼その他の事由により、右各工事の寄附願提出のための書式、寄附願受領後における工事着手の時期、その他工事施工に関し請負人の履践すべき手続等の事務的な事項につき案内指導することもまた被告人の右管理班長としての職務に密接に関係ある事項であるというべきをもつて浅草商店会が被告人早川斉を本件両工事の工事請負人に選定し、これをして同工事を施行させるに至つたのは、同工事に関し、前示管理権限を有する管理班長たる被告人細川四郎の紹介推薦によるものであること及び同被告人において被告人早川斉に対し右各工事それぞれの寄附願に関する書式や前示の如き工事施行に関して工事請負人の履践すべき手続等の事務的な事項について教示指導してやつたこと並びに被告人早川斉において原判示第一の(一)の(1)及び(2)の各金員を被告人細川四郎のこれら職務上の便宜や好意ある取扱を受けたことの謝礼(殊に、原判示第一の(一)(2)の前示仲見世外壁補修工事は浅草寺のいわゆる御開張―昭和三十年五月一日―前にこれを竣工するの必要に迫られた結果、被告人早川斉は、特に被告人細川四郎の諒解を得て、同工事寄附願受領の許可前早くからこれが工事に着工するの便宜な取扱を受けたことも証拠上明白である。)の意味をも含めて供与し、被告人細川四郎もまたその趣旨でその供与を受けたことの証拠上明らかに窺われる本件において原審が、その判決において、右各金員を供与した趣旨の一つとして、前示各工事を請負うにつき被告人細川四郎から好意ある職務上の取扱を受けたことに対する謝礼の意味もあつた旨挙げているのは正当である。されば、被告人早川斉が前示各工事を請負うことについて金員が供与されたとしても、これをもつて被告人細川四郎の職務に関するものというを得ないし、又その職務に密接な関係があるものとも言い得ないという趣旨の所論は採用し難いし、また、原判決が、右各金員について右各工事それぞれの施行に関し将来被告人細川四郎の好意ある職務上の処遇を願う趣旨をもつて供与されたものである旨認定している点も被告人細川四郎の前叙の如き職務権限の内容及び同被告人と被告人早川斉との間にこれが職務に関して生じた前叙の如き関係等(現に原判示第一の(一)(1)の仲見世の前示屋根改修寄附工事については一旦決定された当初の設計に基く工事として寄附を受領することになつていたのであるが、これが工事に関する同判示金員の授受後、被告人早川斉提出にかかる早川工務店名義の右工事設計変更の仕様書及びその見積書を添附した仲見世商店会からの同工事設計変更願書に基く設計変更の許可があつて始めて同工事の完成を見るに至つたものであり、被告人細川四郎は、これが設計変更願書の提出に当つてもその書式等について被告人早川斉に対して教示指導してやつたこと及び、同被告人において右設計変更許可に関するいわゆる持廻決裁に関与していることも証拠上明らかに窺われる)に照らし、証拠上認められるところであつて、この点についても、所論にいうが如き事実誤認の過誤はない。果して然らば、原審が、原判決挙示の証拠によつて原判示第一の(一)関係の各事実を認定した上同判示各金員の授受につき、被告人早川斉に対し贈賄の罪、被告人細川四郎に対し収賄の罪の各成立を認めたことは所論にいうが如き前示各工事監督についての被告人細川四郎の職務権限の有無にかかわらず正当であると共に、右金員授受の趣旨についても、これについての原判示と原判決挙示の各般の証拠との対比において前示の如き具体的趣旨の明らかに窺われる本件においては、右趣旨についての原判示は、抽象にすぎ、その意味を把捉し難いから原判決はこの点において判決に理由を附せず又は理由にくいちがいあるの違法があるとの所論も採用し難い。
各所論事実誤認の主張は、要するに、原審が、その専ら有する判断権に基き事理、経験の法則に従い信用力ある証拠を総合判断して事実を認定したところを非難するものであつて採用するに理由がない。各論旨はすべて理由がない。
(三宅 河原 遠藤)