大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)3269号 判決

被告人 平尾静夫

〔抄 録〕

第二、原判示第二の平尾くに殺害の事実について。

(一) 被告人と平尾くにとの間柄については、原判決がその冒頭及び原判示第二の事実として摘示したごとく、両人間の折合が更に悪化し、同人に対する悪感情を次第に募らされていたことは原判決挙示の関係証拠上明白であつて、所論のごとくこれを否定する見解には賛同できない。

(二) 平尾くにの死因についても、その発病の当初においてかけつけた富沢ひさの当審の証言によれば、右くには、額や髪の毛の先まで汗が玉のように流れていて、吐きつぽく胸元が苦しくかきさばきたいようだといい、便所であげたり、くだしたりしたとのことであつたと述べていること、及び原審証人富沢一郎の供述として、同人が平尾くに方に赴いたところ、同人は目が廻つて仕方がない吐気がするので便所に二、三回行つたが出ないといつて青い顏をして苦しそうにしていた旨の記載のあるのに徴しても、同被害者が被告人から原判示のごとく液状ホリドールを飲まされて間もなくホリドール中毒症状を起していたことは明らかであり、それが同女の既往症である高血圧症、腎臓炎に悪影響を及ぼしてこれを増悪させ、かつ随伴的に起つた悪心にもとづく食糧摂取不能による身体衰弱により死亡するに至つたものであることは原判決挙示の関係証拠とくに、平尾くにの死因などについて鑑定人佐藤武雄作成の鑑定書(本件記録五三八丁以下)などによつて明白であつて、その毒物摂取と死亡との間に約一一日のへだたりのあること、及びその死体からパラチオン剤が検出されなかつたのは、その摂取した毒物が少量であつたからであると認められるのであつて、そのことの故をもつてパラチオン中毒を否定し、またはその摂取と死亡との間に相当因果関係がないとはいわれない。所論鑑定人吉川政己の供述はにわかに採用しがたく、被告人の家における食事時における習慣からして被告人が飯茶碗にホリドールを塗布する余地がないとする所論及び佐藤武雄の鑑定書に対する信用性についての所論はいずれも独自の見解に過ぎないものであつて、原判決の事実認定をくつがえすに足るものではない。

(中野 尾後貫 堀真)

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