東京高等裁判所 昭和31年(う)441号 判決
被告人 山下寅之助
〔抄 録〕
控訴趣意一及び二((一)(二))について。
原判決挙示の証拠によれば、被告人は肩書住居において乾物商を営む傍ら、右店舗において営利の目的をもつて、原判示の如く、酒税法所定の「酒類」を反覆継続して販売したものであることを認めるに十分であるから、仮りに所論の如く、右販売にかかる酒類の一部は、店頭で顧客に対し、「つまみ」を添えて飲用させたものであるとしても、これを目して酒税法第九条但書にいわゆる「酒場、料理店その他酒類をもつぱら自己の営業場において飲用に供する業」をなしたものというを得ず、叙上認定の被告人方における酒類販売の所為は、たとえ所論の如く、よつて得た利益が僅少のものに過ぎなかつたとしても、同条本文所定の「酒類の販売業」をなしたものに該当すると言わねばならない。而して、同条が酒類販売業につき免許制度を定めた律意は、酒税収入確保のため、酒類の販売業者をして課税の根拠となるべき資料を提供せしめる(同法施行令第三十四条第二項参照)にあるのであるから、所轄税務署長の免許を受けずに酒類の販売業をする所為は、その販売する酒類の性質(密造酒なりや否や)、数量、価額の如何に拘らず、すべて、同条に違反し、同法第五十六条第一項第二号の犯罪を構成する違法な行為であり、しかも、右犯罪はいわゆる法定犯であること所論のとおりであるとしても、法定犯についてもいわゆる自然犯と同様、犯意の成立には違法の認識を必要としないものと解するのを相当とする(最高裁判所第三小法廷昭和二四年一一月二八日判決最高裁判所刑事判例集第四巻第一二号二四六三頁参照)ところ、敍上の証拠によれば、被告人は、右酒類の販売につき所轄税務署長の免許を受けなければならないことを知りながら敢て、その免許を受けないでこれを販売したものであることを認めることができるから、被告人の所為は、その違法性及び犯意の点を含めて右犯罪を構成するに毫も欠けるところはない。されば、その挙示する証拠により原判示事実を認定し、被告人の所為を酒税法第九条第五十六条第一項第二号の罪に問うた原判決は正当であり、記録に徴するも原判決に所論の如き過誤または判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認、ないしは法令違反の瑕疵あるを認め得ない。所論はいずれも、原審が事実審として専ら有する判断権に基き、証拠の価値及び事実認定につき条理実験則に従い自由に判断したところを非難するか、または、法の解釈につき独自の見解に立脚して原判決を非難するに帰し、採用するを得ない。各論旨は理由がない。
(三宅 河原 遠藤)