東京高等裁判所 昭和31年(う)480号 判決
被告人 戸崎匡一
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
被告人に対する昭和三〇年一一月一二日附起訴状中に、公訴事実第一、乃至第四として論旨摘録のとおりの記載があり、又原判決事実摘示第二、及び原判決添附別紙第一犯罪事実一覧表中に、論旨摘録のとおりの記載があることはいづれも所論のとおりである。しかし窃盗罪の本質は財物に対する事実上の支配すなわち他人の所持を侵しこれを自己の所持に移すことに存するのであるから、前記起訴状において公訴事実として誰々所有の自転車又は冷蔵庫を窃取しと記載してもその所有というのは所有者が事実上の支配をしていた状態を表現する語句であると解するを相当とし、従つて起訴状記載の公訴事実は、被告人が所有者として掲記されている者の事実上支配していた自転車等を窃取したことを示しているものと解すべきであり、原判決の事実摘示も亦その添附する第一犯罪事実一覧表各欄の記載と相俟つて被告人が右一覧表被害者氏名欄掲記の各被害者の事実上支配していた自転車等を窃取したことを判示しているものと認められ、起訴状中の公訴事実第一、乃至第四の記載も、原判決の事実摘示も共に窃盗罪に該当する事実を示すものとして欠くるところなく、又その間に相違があるものではない。しからば原判決には所論のような理由不備の違法はなく、論旨は理由がない。
(近藤 吉田作 山岸)