東京高等裁判所 昭和31年(う)654号 判決
被告人 鈴木富士雄
〔抄 録〕
所論は、本件被害新聞紙は反古に過ぎぬものであつて、全然経済的価値のないものであるから、刑法第二百三十五条に所謂財物に該当しないと主張する。然し窃盗罪に於て奪取行為の客体となる財物とは、財産権殊に所有権の目的となり得べき物を言い、それが金銭的乃至経済的価値を有することは必要でないことは、夙に最高裁判所の判例の示すところであり、原判決引用の証拠によれば、所論の新聞紙は原判示の如く昭和三十一年一月六日附「松戸競輪」と題するタブロイド版新聞紙二枚であつて、その記事内容は本件犯行時以後の競輪に関するものも相当あつて、競輪に興味を持つていた被害者にとつては、当時尚十分な使用価値があつたものと認められるから、右新聞紙は優に所有権の目的たり得べき物であつたと言うべく、従つてこれを原判示の如き手段によりすり取つた被告人の所為を窃盗罪の既遂と認定した原審の判断は相当であり、これと見解を異にし、原審の事実の誤認を主張する論旨は到底採用することができない。
(中西 山田 石井謹)