東京高等裁判所 昭和31年(う)864号 判決
被告人 松浦登四男
〔抄 録〕
よつて記録を調査するに、被告人は原審に於て裁判官の問に対し、所論の如く原判示犯行当時注射を打つていたので、通常の頭がなく、物事を詮索する力がなかつた旨を供述し、更に原審第五囘公判に於ける被告人の最終陳述に於て、「本件犯行の出来た当時チクロパン、ヒロポンを注射していたので、普通の精神状態ではなく、従つて思考力及び詮索する頭がなかつたのです。ですからそのとき悪いことをしたとは考えていないのです。」と供述し、刑事訴訟法第三百三十五条第二項にいわゆる刑の減免の理由となる事実を主張していると認められるに拘らず、原判決が何等この点について判断を示していないことは所論の通りである。而してこの判断の遺脱は、同法第三百七十九条にいわゆる訴訟手続に法令の違反がある場合にあたるものと解すべきところ、記録を検討するも、被告人が原判示各犯行当時所論の如く心神耗弱乃至心神喪失の状態にあつたものとは到底認めることができないのであるから、原審が被告人の右主張に対し判断を示さなかつた違法は、結局判決に影響を及ぼすことがなかつたことに帰するものと云わなければならない。従つて右の法令違反は原判決破棄の理由となると為す論旨は理由がない。
(中西 山田 石井謹)