東京高等裁判所 昭和31年(う)921号 判決
被告人 古屋栄雄
〔抄 録〕
ところで、原判示事実は、すべて原判決の挙示する照応証拠によつて、優に証明することができ、記録を精査し、また、当裁判所が親しく証拠の取り調べをした結果に徴してみても、原判決に事実誤認の跡は見い出されない。被告人の判示葛貫久子殺害の所為並びに殺害後の死体に対する損傷等の所為たるや、人をして目を掩わしめるものがあり、実に、稀に見る異常性を帯び、その残忍なること、言語に絶する程ではあるが、記録にあらわれた凡ての証拠をもつてしても、被告人が判示犯行当時、心神耗弱の状態に在つたものと論ずるに由ないのであつて、この点に関する原判決の説示は、まつたく正当であるといわなくてはならない。それ故に、各所論中、原判決の事実認定を非難する部分は、いずれも採用することができず、該論旨は理由がない。次に、原判決が被告人に対して無期懲役を言渡した点を捉えて、量刑不当と難じ、被告人に科するに有期懲役刑をもつてせよと主張する各所論は、後段に説述するごとく、当裁判所の見解と、まつたく、相容れないものであつて、とうてい採用するわけにはいかないので、該論旨も亦おのずから排斥するの外はない。それで、被告人並びに弁護人の各控訴は、刑訴法第三九六条に則つて、棄却すべきものとする。
浦和地方検察庁次席検事野中光治の控訴理由は、末尾に添附する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。
ところで、原判示事実は、前段説述のごとく、すべて、原判決の挙示する証拠によつて、優に、証明することができるのであるが、判示葛貫久子殺害の動機に、いささかも酌量すべき余地なく、剰え、その殺害後、その死体を寸断して肥溜め内に抛棄し、或は恥部の肉片を神社の境内や神殿内に撒布するに至つては、まさに、天人共に許さざる兇悪非道な犯行というの外はない。しかも、この犯行たるや、愛人文江に対する愛憎の交錯する激情の赴くまま、強い衝動に駆られて平静を失つた結果であつたとはいえ、被告人は生来的に多少の性格偏倚があり、長ずるに及んで、多動性、衝動性、発揚性、爆発性並びに道徳感情の鈍麻性などを特性とする性格的異常性を具えるに至つたことが、被告人をして敢てかかる犯行に及ばしめたものと観ることができるのである。しかり、而して、被告人のこの性格的異常性はたやすく矯正され得るものではない。この性格的異常性の故に将来再び同種同様の非行に出ずる虞なしとはしない。更に、また年若くして一命を失つた被害者葛貫久子並びにその親族の上に思を致すならば、被告人に対する処置たるや、当然峻厳たらざるを得ないのである。ここにおいて、当裁判所は、特別予防並びに一般予防の二つの面から、慎重に考慮を重ねた結果、被告人に科するに極刑をもつてするこそ、よく刑政の目的に適うと考えるのである。しかるに、原判決は事茲に出でず、被告人に対して無期懲役を言渡した。これ、明らかに不当に軽い処置であつたといわなくてはならない。してみれば、検察官の論旨は理由あるものというべく、原判決はこの点において、とうてい破棄を免れない。
(中野 尾後貫 堀真)