東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1263号 判決
成立に争ない甲第九号証によると昭和三十二年六月十七日、控訴人と訴外宮川満直と訴外桜井ユキとの間に控訴人主張のように、前記売買契約の無効を確認して、すでになされた所有権移転登記手続の抹消登記手続をする旨の合意がなされ、同日厚木簡易裁判所でこれにそうような調停が成立したように見える。しかしながら、この売買無効確認の合意はみぎ売買の成立した日からおよそ六年の長年月をすぎてなされたこと、控訴人と訴外桜井ユキは兄妹の間柄でともに本件建物に居住し、みぎユキ名義で料理業を営んでいること、控訴人は一方に被控訴人先代小清水健次郎を相手方として「借地法に基く建物買取請求に伴う買取価格調停の申立」を同簡易裁判所に申立てながら、その解決のつかぬうちに、「家屋売買による損害賠償請求の調停」を同裁判所に申立て、前記調停の成立を見たもので、その調停条項も控訴人がわの作成したものを訴外宮川満直や訴外桜井ユキがそのまま承諾したものであること、みぎ調停は、本件訴訟の第一審において控訴人が敗訴し、本件建物収去の判決が言渡され、控訴人から控訴し係争中になされたものであることなどが成立に争ない甲第七、八、九号証、当審証人宮川満直の証言当審における控訴人本人尋問の結果の各一部によつてあきらかである。これらの各事実と本件弁論の全趣旨をあわせると控訴人主張の合意ないし調停条項には関係当事者の作為のあと歴然たるものがあつて、みぎ合意は当事者通謀による虚偽の意思表示といわざるを得ず、したがつてみぎ調停にもとずき昭和三十二年六月二十八日なされた本件建物所有権移転登記は実体的法律にそわないもので、無効のものとなさざるを得ない。
(藤江 谷口 満田)