東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1574号 判決
ところで、被控訴人が昭和三十二年三月五日(本件が当審に係属するに至つた後であること記録上明らかである)前記売買残代金百万円を弁済のため東京法務局に供託したことは当事者間に争がない。よつて右供託の効果につき判断するに、債務者が供託によりその債務を免れるためには、供託に先き立ち債権者に対し弁済の提供をすることを要するものであるが、現実の提供をして拒絶せられ又は口頭の提供をしても明らかに受領拒絶が予想される場合には、債務者は弁済の提供をしないで直ちに供託することによつてその債務を免れるものと解するのを相当とする。本件においては、被控訴人が前記供託をするに先き立ち、予め控訴人に対し弁済の提供をしたことは主張も立証も存しないけれども、控訴人は本訴において第一審以来本件売買契約が有効に解除せられたことを主張して本件売買契約の履行を求める被控訴人の請求を拒絶しているものであるから、被控訴人がたとえ売買残代金百万円を弁済のため控訴人に提供してもその受領を拒絶せられ徒労に帰すべきことは明らかに予想されるところであるから、被控訴人は予め弁済の提供をしなくても、前記供託によつて右残代金支払の債務を免れたものといわなければならない。してみると、控訴人は被控訴人に対し本件建物を明け渡し且つ売買を原因とする所有権移転登記手続をする義務あること明らかであるから被控訴人の本訴請求のうち右義務の履行を求める部分は理由ありとして認容すべきものである。
(浜田 伊藤 仁井田)