大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2560号・昭31年(ネ)2473号 判決

原告は、更に、被告大滝の賃料不払を理由として昭和三十二年一月十九日本件賃貸借契約を解除したと主張するので、この点につき判断する。

(1) 原告が右の日に被告大滝に対し原告主張の期間内の賃料不払を理由に本件家屋の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと、及び同被告が当時右賃料を支払つていなかつたことは当事者間に争いがない。

そして、本件訴状の請求の趣旨中には被告大滝に対し右期間内の賃料の支払を請求する趣旨が含まれていること、この訴状が昭和二十八年三月十一日同被告に送達せられたことは記録に徴し明らかであり、この訴状の送達により原告は同被告に対し右賃料債務の履行を催告したものと解すべきことは原告の主張する通りである。しかしながら、さきにも説明した通り、被告大滝は昭和二十五年四月頃及びその后の二回に、原告の代理人上野鈴吉に対し約定の賃料を持参提供したに拘らず、いずれもはつきりした理由も示すことなくその受領を拒絶せられ、更にその頃前記空地の使用に関し原告との間に紛議を生じ、次いで原告は被告大滝に対し昭和二十六年六月には前記妨害排除等請求訴訟を、更に昭和二十八年二月には本件家屋明渡請求訴訟を提起するに至つたこと(本訴提起の事実は当裁判所に顕著である)、及び被告大滝は自己の住居竝びにその主宰する被告会社の営業用店舗として本件家屋を必要とする事情にあること、等の事情に、成立に争いのない乙第二十三、第二十四号の各一、二、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第二十二号証の一、二、原審被告大滝本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すれば、もともと被告大滝としては、原告が三浦から本件家屋を買受けた后も原告に対し約定賃料を支払つて原告との間に従前通り本件家屋の賃貸借を継続することを希望していたのであるが、原告が当初から賃料の受領を拒絶したのみならずやがて両者間に前記の如き紛議を生じ訴訟沙汰にまで発展するに至つたので、同被告はその間原告に対し賃料の受領を求めても依然拒絶せられるものと思い、毎月約定の賃料額を銀行預金したまま荏苒日時を経過したところ、原告より前記解除通知を受けたので昭和三十二年一月二十三日原告の為に昭和二十五年五月一日から昭和三十二年一月末日までの未払賃料合計金二十八万三千五百円を弁済供託したことを認めることができ、この認定を覆すに足る資料はない。右認定からすれば被告大滝が原告主張期間内の賃料を支払わなかつたことについては遅滞の責を免がれ難いけれども、他面、同被告において当初二回に亘り約定賃料の提供をしたに拘らず原告がその受領を拒絶したことが爾后における同被告の賃料不払の主要な原因であつたと推認できるから、かかる事情の存する本件にあつては、原告は、あらためて同被告に対し受領の意思を明らかにして相当の期間を定めて賃料の支払を催告した后でなければ賃料不払を理由に本件賃貸借契約を解除することはできないものと解するのが相当である。尤も、相当期間を定めないで催告した場合でも、その催告の時から相当の期間を経過したときは解除権が発生するものであることは判例の存する所であるけれども、法が解除の前提として相当の期間を定めた催告を必要としているのは、債権者をして謂わば最後の通牒を発せしめ債務者において尚これに応じない場合に債権者に付与するに解除権を以てするの趣旨に外ならないのであるから、当該催告を受けた債務者において若しその催告に応じなければ契約を解除されるかも知れないということを予知できる場合でなければならぬもの(催告において期間内に履行しなければ解除するということを明示する必要は勿論ないけれども)であり、この理は判例で認める所の期間を定めない催告の場合も同様である。訴の提起は付遅滞の効果があり(給付の訴の場合)又時効中断の事由としては裁判外の催告に勝る効果も認められているけれども、一般的に云えば訴の提起は国家に対して私権の保護を求め債務名義を得ることを究極の目的とするものであつて、訴提起によつて生ずる催告としての効果はその附随的な私法上の効果に過ぎない。これを以て契約解除の前提としての催告であるとは通常何人も予期しないことであるから、法に遵つた相当の期間を定めた催告であることを看取できない限り、単に給付の訴が提起されただけでは、その訴状送達後或は口頭弁論における請求の趣旨の陳述後相当の期間を経過しても解除権が発生しないものと解するのが相当である。しかるに右の如き相当の期間を定めた催告をなしたものと認めうべき証拠はない。そうすれば原告のなした右解除の意思表示もまたその効力を生じないものというべきである。

(奥田 岸上 下関)

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