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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2621号 判決 1960年4月08日

控訴人(被告) 国

被控訴人(原告) 岡本政利

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次の諸点を附加するほかは、原判決の事実摘示の記載と同一であるから、これをここに引用する。

第一、被控訴人訴訟代理人の附加した陳述

「労働基準法第二十条第一項但書にいう「労働者の責に帰すべき事由」とは、同項本文の保護を与える必要を否定できる程度に重大又は悪質な事由であつて、使用者をしてかような労働者に三十日前解雇の予告をさせることが当該事由と比較して均衡を失するような場合、換言すれば即時解雇を当然とするほど重大な義務違反ないし背信行為が労働者について存在する場合をいうものである。然るに本件においては、四十ポンドのシエープチヤージはヒユーズが取外されていて、本件の場合よりも遥かに高い所から落下しても爆発したことなく、そのような場合でも従来現場だけで内密に済まされていたのであるから、被控訴人は故意に職場の規律慣行に違反したものではなく、情状の軽い注意義務違反があつたに過ぎないものというべきであつて、この程度の事由は労働基準法第二十条第一項但書所定の事由には該当しない。」

第二、控訴人訴訟代理人の附加した陳述

「被控訴人は火薬を積載した本件貨車の開扉前その内部の支材が除去されていることを知つており、従つて戸を不用意に開けば火薬の落下すべきことは当然予知し得たはずである。しかもその場所は火薬廠内であり、高度の危険を伴う火薬の貯蔵、運搬、積替等の作業の営まれている場所であるから、かような場合においては他の一般作業場におけると異なり、被控訴人としては貨車の完全停止後その扉を静かに細目にあけ、一旦内部を確かめ危険のないことを確認した上ではじめて広くあける等細心の注意を払うべき義務を負うものであり、そのことは特に規定ないし指示を待つまでもなく、作業常識上当然であるばかりでなく、被控訴人は、いわゆるフオアマンとして作業全域にわたり作業人員及び移動車輛の監督支配をし、班員のリーダーとして作業の安全につき責任を持つ重い任務を課せられていたのであるから、作業に当つては特に細心の注意を払うべきであるにもかかわらず、この注意を用いず漫然停止前の貨車の扉を貨車の進行方向と反対の方にかなり強い力で一気にあけたため積載火薬を地上に落下させるに至つたものであつて、このことはフオアマンとしての被控訴人がその適格を欠くことを示すものであり、当然解雇事由となるものである。仮に本件解雇の意思表示が即時解雇の効力を生じないとしても、右意思表示中には解雇の予告を含むものと解せられるから、右意思表示のあつた日より三十日を経過した時又は遅くとも所轄労働基準監督署長から解雇事由の認定を受けた昭和二十九年七月二十四日を以て解雇の効力を生じたものというべきである。」

第三、当審における新たな証拠<省略>

理由

被控訴人が昭和二十六年五月三十日駐留軍労務者として控訴人に期間の定めなく雇傭され、爾来横浜市港北区奈良町七百番地所在米国駐留軍池子火薬廠田奈支廠に爆薬取扱工として勤務していたが、昭和二十九年三月中(被控訴人は三月十日と主張し、控訴人は同月二十二日と答えている。)控訴人から即時解雇の意思表示を受けたこと、控訴人が右解雇の理由としたのは、被控訴人が(一)昭和二十九年二月二十三日午前十一時頃田奈支廠東レールヘツド附近で後退しつつあつたトラツクの後部ドア(テールゲート)を開け、そのため右ドアを開けるのにトラツクが停止している場合に比較して約二倍の時間を費し、かつ、被控訴人の生命を危殆ならしめたことが、甚しく常識を欠き、安全規則違反であること及び(二)同日午後三時頃同所附近において時速五哩で動いていた貨車の側壁に飛び乗り、貨車の戸を開け、そのため被控訴人の生命を危殆ならしめ、かつ右貨車に積まれてあつた四十ポンドシエープチヤージ(爆薬)二箇を地上に落下させ、爆発の危険を惹き起したことにより、安全規則に違反したというのであつたことは、いずれも当事者間に争なく、成立に争のない乙第六号証の一、当審証人七尾善一郎の証言及び同証言により真正に成立したものと認める乙第一、第二号証、同第六号証の二によれば、被控訴人解雇の日は昭和二十九年三月二十二日であること及び控訴人が右解雇事由につき所轄東神奈川労働基準監督署長の認定を受けたことを認めることができる。

よつて被控訴人につき即時解雇の事由があつたか否かを判断する。被控訴人が昭和二十九年二月二十三日午後三時頃米国駐留軍池子火薬廠田奈支廠内東レールヘツド附近において貨車の扉を開け四十ポンド爆薬(シエープチヤージ)の箱を地上に落下させたことは当事者間に争なく、当審における被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)により真正に成立したものと認める乙第九号証、成立に争のない乙第十四号証の一、二、原審証人森俊太郎の証言により真正に成立したものと認める乙第三号証当審証人村田春雄の証言により本件現場の見取図と認める乙第十一号証、前掲乙第六号証の一、二、原審証人坂本富士夫の証言(後記採用しない部分を除く。)同木村真司、同森俊太郎、当審証人西村清明、同七尾善一郎、同平入丑松、同藤本静男、同大和田光徳、同大沼信行、原審及び当審証人滝川保之の各証言、当審における検証の結果(第一、二回)並びに原審及び当審における被控訴本人尋問の結果(当審は第一、二回)を総合すれば、(一)被控訴人は当時田奈支廠の爆薬取扱工でフオアマン(班長)と称され所属班員十名位を指導し作業の安全につき責任を負う地位に在る者であつたこと、(二)被控訴人は、前記日時場所でシエープチヤージ(爆薬)の箱を貨車から卸すため、その貨車が入替移動中で、プラツトホームを過ぎまだ完全に停止し切らないのに、地上に立つて貨車の扉の下部の把手を取り貨車の進行方向と反対の方向に強い力で一気に扉を引き開けたため、内部に積んであつた爆薬箱の内、扉に倒れかかつていた最上端の一箇重量四貫程度のものを開扉と同時に積荷の上部から前記のように地上に落下させたこと、(三)右爆薬は落下の衝撃によつても爆発せず、貨車は当時制動機が働いていたのでそのまま二米程進行して停止したこと、(四)貨車に爆薬箱を積むときには貨車内部に木の支柱(バリ)を立ててその動揺、崩落を防ぐことになつていたところ、本件事故発生当日は、被控訴人等作業員の手で貨車内の支柱を取外してあり、そのことは当時被控訴人も知つていたこと(五)爆薬を積んだ貨車が支柱を取外されているときは、その扉を開くには、往々内部の爆薬箱が崩れて扉に倒れかかつていることがあるので、貨車の完全停止の後内部の状況を確かめながら静かに開く等爆薬の崩落を予防しながら開扉することが作業安全上必要であり、そのため手で先ず細目に扉を開けることは通常は可能であり、扉が固くてそれができないときはバールを用いて静かに細目に開けることができ、これに用いることのできるバールは各班に数箇宛配布されていたこと、(六)一般にシエープチヤージは、爆薬三十ポンドを装填し、強烈な爆発力があり、かつ衝撃により爆発し得るものであり、信管をつけていない場合(本件はこれに該当)でも、コンベヤー、机、トラツク又は貨車から落下したため爆発した多数の事故例があること、(七)爆薬類は種類によつて敏感性に差異があり、同一種類のものでも貯蔵中に敏感性を増すことがあるので、その荷扱については、個々の爆薬の種類毎に取扱方を別にすることをせず最も敏感な種類のものを標準としてこれに対応する注意を用い慎重丁寧に取扱うべきものとされていること、(八)本件事故発生の場所は火薬廠内の貨物線終点附近で、爆薬等を集積する上屋数棟が相接しており、事故発生当時は爆薬を積んだ貨車十七輛が入つていて、もし右落下した爆薬が爆発すれば、これら貨車内又は上屋内の爆薬のみならず延いては火薬廠内各所の火薬貯蔵庫に誘爆して想像を絶する大事となる可能性があつたことを認めることができる。成立に争のない甲第五号証中右認定に反する記載は前示乙第十四号証の二の記載に徴し採用し難く、原審証人坂本富士夫、同渋谷正行の各証言中以上の認定に反する部分も前掲各証拠に照し採用し難い。以上の事実によつて見れば、被控訴人が右認定のような状況の下において爆薬を積んだ貨車の停止を待たず、積荷の状況をも確めないでその扉を一気に引開け爆薬落下の危険を生じさせるに至つたことは、これが通常の貨物の取扱としてならばそれほど強く非難するには当らないとしても、本件のように火薬廠内の上屋附近で爆薬を積んだ貨車から爆薬を卸すための作業であるという観点に立つて見るときは、甚しく軽卒、危険な行為で、同廠内に勤務している職員従業員全部の生命の保全のため及び一般保安のため到底許容されることのできないものであり、爆薬取扱工としての適格を否定さるべき十分な理由があるものということができる。

被控訴人は、貨車内の支柱が除去されている以上たとえ貨車の完全停止後であつても爆薬が落下することに変りはない旨主張するけれども、貨車進行中に開扉をすることは注意深く安全に開扉することを著しく困難にするものであるから、爆薬塔載貨車の開扉方法としては厳に避けなければならないことであり、右は被控訴人の適格性を論ずるについて無関係ではあり得ない。

本件においては、落下した爆薬は爆発しなかつたけれども、爆発の危険性があつたことは前示のとおりであり、爆薬取扱作業の安全のため、かような爆発を惹起する危険ある作業の仕方そのものが厳しく排斥されるのであつて、現実に爆発しなかつたという結果によつて非難の程度が軽微になるということは事柄の性質上認められない。

控訴人は、被控訴人の右開扉当時の貨車の速度は時速五哩であつた旨、被控訴人は貨車の側壁に飛び乗つてその体勢で開扉した旨及び落下した爆薬は一箱ではなくて二箱であつた旨主張し、これらの事実はいずれも当裁判所の認めないところであるけれども、前認定に係る被控訴人の爆薬取扱に関する行為は、それだけで被控訴人が爆薬取扱工として不適格であることを露わしたものであり、火薬廠内において引続き被控訴人を労務に服させることは重大な危険を伴うものであることを示すものであるから、被控訴人の右行為は、労働基準法第二十条第一項但書後段の即時解雇事由に該当するものというべきことができ、敢て控訴人主張の他の解雇事由即ち後進中のトラツクの後部ドアを開いた点に論及する要を見ない。

なお被控訴人本人は、当審第一、二回尋問において、当時貨車内の支柱を取外したあとには大工が仮支柱(仮バリ)を施したものと思つていた旨供述するけれども、当審証人西村清明の証言及び当審における被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)を総合すれば、右貨車内の支柱を取外したのは被控訴人が、前記開扉をする前、十五分間の休憩時間を隔てた直前のことであり、支柱の取外しは爆薬を卸すためにするのであつて被控訴人等が本件貨車から右爆薬を卸す作業は右十五分の休憩後直ちに着手されたものであることを認めることができるので、もし、その間に仮支柱をするくらいならばむしろ最初から支柱を取外さなかつたはずと考えられ、僅か十五分間の休憩時間中に大工が仮支柱を施しておいたと考えたということはたやすく首肯し難いのでこの点に関する被控訴人本人の右供述は採用することを得ず、仮に被控訴人が当時その供述するように考えていたとしてもそれは根拠の頗る薄弱な臆測に過ぎないものと認められ、かような臆測に基いて前記のような危険な開扉をしたとすればそれ自体甚しい過失であつて、それが即時解雇の事由となることを否定することはできない。

なお右に関連して現場における作業規律その他作業の実情に言及する。前出乙第三号証、原審証人坂本富士夫及び同渋谷正行の各証言(後記採用しない部分を除く。)同森俊太郎、同木村真司、当審証人平入丑松、同大和田光徳、同大沼信行、原審及び当審証人滝川保之の各証言を総合すれば、田奈支廠においては、少くともフオアマン以上の者に対し安全規則の抜粋をパンフレツトに記載して渡してあり、それには「上級者、監督者、教官その他関係担当官の注意事項をよく守つて作業を行うこと、弾薬庫や作業所入口に掲示してある爆発物の貯蔵取扱の一般指示をよく読んで理解し、実習に際してはこれを守ること、」等が示されてあり、弾薬庫や作業所入口に掲示してある爆発物の貯蔵取扱の一般指示には、「常に火薬弾薬は注意深く丁寧に取扱うこと、毀れた容器に入れたまま火薬や弾薬を貯蔵してはならない、各ロツト毎に別々に貯蔵を行い、弾薬火薬は安定に積みその各部にダンネージを使用して空気が流通するように堆積せよ、又床から離せ、弾薬庫内又は百呎以内で容器を開けたり修理したり包装したりしてはならない、」等具体的に細部に亘る指示がなされてあり、作業所にはインスペクターを配置して安全作業に関する監督と注意を行い、定期にフオアマン会議を開いて安全作業等に関する事項の協議検討をなし、本廠である池子火薬廠に毎月一回開かれる安全会議(但し月によつて開かれないこともある)には毎回フオアマン一名を交代出席させ安全作業に関する事項の協議に参加させてその徹底を図り、弾薬を取扱うには投げたり落したり転がしたり曳きずつたりしてはならないことを注意していたのであつて、前記安全規則抜粋その他文書になつている指示中には、特に、支柱を取外してある移動中の貨車から爆薬を卸すときは完全停止を待ち爆薬が落下しないように注意して扉を開けなければならないということを具体的に指示してはないけれども、それはむしろ当然自明の注意義務として特にこれを明示しなかつたに過ぎずその程度の注意義務は具体的な規定又は指示を待つまでもなく爆薬取扱工においてこれを知つていたものと認められる。原審証人坂本富士夫、同渋谷正行の各証言中右認定に反する部分は採用し難い。従つてこのような場合について特段の規定ないし指示がなかつたという理由によつて被控訴人のした本件危険な開扉作業が即時解雇に値しない軽微な注意義務違反に過ぎないものと断定することはできない。なお右に採用した各証拠を総合すれば、田奈支廠においては米軍当局より右のように安全作業を要求されている反面、実際上貨車の滞貨料等の関係から現場の米国兵士より仕事をせき立てられることが多く、そのような場合には、労務者は急ぐ余り、勢い貨車が停止し切らない間にその扉を引き開けるようなこともあり、時には火薬箱を取落したが爆発に至らず処分を受けないで済んだこともあることが認められるけれども、仕事の能率を挙げるため作業の安全を犠牲にすることにはおのずから限度があり、仕事を急ぐため爆薬の取扱を粗略にすることは許されない。もつとも仮に右のような粗略な取扱が田奈支廠において平素事実上黙認されていたとすれば、これを解雇理由とすることは信義に反することになるけれども、原審及び当審証人滝川保之の証言によれば、過去においては火薬を取落した事例があつても、労務者相互の庇い合いや現場に居合わせた米軍兵士のその場での叱責程度で済まされ、責任ある現地の上官に報告されずその場限りに隠廠されてしまつたため、処分の問題を起さなかつたに過ぎなかつたものと認められ、右のような作業方法が田奈支廠における作業のやり方として許されていたものとは認められない。本件においては、前示乙第六号証の一、二により認められるように、被控訴人の前記不注意な作業は田奈支廠における米軍の現場の責任将校であるスライ少尉の目撃下に行われたため、他の場合のようにこれを隠廠する途がなく、そのまま被控訴人の解雇問題に発展したものであるから、これを解雇事由とすることを以て従来のこの種事故に対する使用者側の一般的取扱例に反する苛酷な取扱と見ることはできない。

以上の次第で被控訴人が爆薬塔載貨車の開扉につきとつた前記不注意な作業方法は、それ自体即時解雇に値する事由であるから、控訴人主張の他の解雇事由すなわち後進中のトラツクの後部ドアを開けた行為の当否を論ずるまでもなく、控訴人が被控訴人を解雇したことは理由があるものといわなければならない。

従つて又、本件解雇は即時解雇に値しない事由に基いてなされたものであるから解雇権の濫用であるという被控訴人の主張もまた採用することができない。

被控訴人は、右のような解雇事由は安全及び制裁に関する事項であるから、就業規則又はこれに準ずるなんらかの規則に定め、かつこれを周知させる必要があるにかかわらず、本件解雇事由についてはその措置が執られていないから、右解雇は無効であると主張するけれども、労働者の責に帰すべき事由があるときは、就業規則又はこれに準ずべき安全規則等に定めて周知させた解雇基準に該当すると否とを問わず、即時解雇をなし得べきこと労働基準法第二十条第一項但書の規定により明らかであるから、右主張は採用できない。

被控訴人は、本件解雇は不当労働行為であると主張する。成立に争のない乙第四号証の一ないし四、原審証人坂本富士夫、同渋谷正行、当審証人西村清明の各証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果を総合すれば、被控訴人は昭和二十七年八月田奈駐留軍要員労働組合が結成されたときその執行委員となり、同年暮のストライキに際しては行動隊長となり、昭和二十八年以降も闘争委員として組合活動を続け、同年暮の四十八時間ストライキにも参加し、終始組合内の熱心な指導者であり、又組合員たる所属班員のため超過勤務手当の支給方を使用者側に強く要求してこれに成功したこともあり、そのようなことから田奈支廠の米軍士官より好感を持たれていなかつたことが認められるけれども、本件解雇が被控訴人の右組合員であること又は正当な組合活動をしたことの故を以てなされたものであることは、右各証人の推測に基く直ちに採用し難い証言を除いては、これを認めるに足りる資料がない。前記のように田奈支廠において過去に本件と同様な爆薬取落しがあつたのに解雇その他の処分を受けなかつた事実はあるけれども、それは事故が隠廠されて責任ある上官に通報されなかつた結果であること前示のとおりであるから、右過去の事例と比較して本件解雇が不当労働行為であることを推認することもできない。

被控訴人は訴外鴨志田上八が嘗て信管積替の際これを爆発させたのに処分を受けなかつたことと比較して本件解雇が不公平な取扱であることを指摘しているけれども、原審証人坂本富士夫、同森俊太郎の各証言によれば、鴨志田上八の惹起した右爆発事故は不明の原因によるものであつて爆薬の取落しその他同人の不注意な取扱によるものではなかつたことが認められるので、被控訴人の右主張は当らず、これを以て不当労働行為を推認することはできない。

被控訴人が昭和二十八年十二月十六、十七日の四十八時間ストライキに参加した直後その班員が他に分属させられ、被控訴人自身約一箇月程他の班に配置替せられ、それは一種の格下げであつたこと、被控訴人が昭和二十九年三月十日部隊より追放されたとき通門パスや胸章を取上げられ腕力で門外へ無理に連れ出される等手荒い取扱を受けたこと及び被控訴人の解雇後これを繞つて組合と使用者側との間に団体交渉の行われたことは、原審証人坂本富士夫、同木村真司の各証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果により明らかであるけれども、これらの事実も被控訴人の解雇が不当労働行為を構成することを推認せしめるに足りるものではない。結局被控訴人の不当労働行為に関する主張はこれを採用することができない。

よつて被控訴人の解雇が無効であることを主張し、右解雇にかかわらず控訴人との間に雇傭契約が存在していることの確認を求める被控訴人の請求は理由がなく、これを認容した原判決は失当であるから、これを取消し、被控訴人の請求を棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)

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