東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2698号 判決
次に控訴人の権利濫用の主張について案ずるに、控訴人が本件建物を福祉施設に使用していることは当事者間に争がなく、当審において真正に成立したものと認める甲第九第十号証、当審証人渡辺綱雄、当審における控訴人本人の各供述によれば、控訴人が戦前から乳幼児保護育成の事業に従事し、戦後本件土地にその施設を建設し、逐次拡充し現に児童福祉法による乳児院を設立し、自ら院長となり職員十数人、収容児二、三十人を擁して東京都の共同募金会等から寄附を受けて経営に当り社会公共の福祉に貢献していることが窺われる。しかしながらこれ等施設の敷地所有者と雖、所定の手続若くは補償の方法を経ないでその権利の制限を甘受しなければならないいわれはなく、本来対抗力のない権利が公益優先の名のもとに、これを対抗せられるのと同じ結果になることを認容すべき理由はないから、被控訴人は控訴人において被控訴人所有の土地を占有すべき権原の認められない本件において控訴人に対しその明渡を求めることはこれを以て権利の濫用と解すべきではない。従つて控訴人のこの点の主張も採用することができない。
(梶村 岡崎 堀田)