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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)368号 判決 1957年7月19日

日本相互銀行

事実

控訴人(一審原告、敗訴)株式会社日本相互銀行は請求の原因として、被控訴人は昭和二十八年十一月二十七日訴外向井義政と共同して金額三十五万円、支払期日同年十一月三十日なる約束手形一通を控訴人宛振り出し、右金額を控訴人より借り受けたが、右手形金は支払期日を過ぎても支払われず、一方訴外向井は控訴人に対し相互掛金契約に基き合計十二万円の掛金を有していたので、控訴人は昭和三十年八月三十一日右手形金に対する支払期日の翌日より同日まで二十一日分の損害金三万五千円と右掛金とを相殺し、残金を手形元金に繰り入れたから手形金残額は二十六万五千円となつた。よつて右金額とこれに対するその後の損害金の支払を求めると述べた。

被控訴人は控訴人主張の事実を否認し、仮りに控訴人主張の日以前に被控訴人が借用した事実があつたとしても、昭和二十八年十一月二十七日、控訴人被控訴人並びに訴外向井義政間において、向井が被控訴人の債務を免責的に引き受ける契約が成立したから、被控訴人に支払の責任はないと述べた。

理由

本件約束手形の振出人欄における被控訴人の署名捺印は、被控訴人の否認するところであるが、証拠をもつてしても右被控訴人の署名捺印が真正なものであることを証するに足らず、かえつて他の証拠を綜合すれば、訴外向井義政が、さきに被控訴人と共同して控訴人株式会社日本相互銀行から借り受けた金五十万円につき、その後控訴銀行と交渉してこれを向井義政の三十五万円、被控訴人の金十五万円の各単独債務に分割し、向井義政において右自己の債務三十五万円につき控訴銀行宛に同人単独で本件約束手形を振り出した際、控訴銀行の係員においてこの手形についても被控訴人が共同振出人となるものと速断し、たまたまその頃被控訴人とは別に控訴銀行と取引があつて来行した被控訴人の妻より同人の印鑑を預かり、控訴銀行事務員がこれを使用して右手形の振出人欄に共同振出人として被控訴人の署名捺印をしたものであつて、右署名及び捺印は何れも被控訴人の真正のものではなく、又被控訴人の意思に基いたものでもないことが認められるから、被控訴人において右手形上の責を負わないこと明らかである。

してみると、控訴人の被控訴人に対する請求を棄却した原判決は相当であるとして、本件控訴もこれを棄却した。

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