東京高等裁判所 昭和31年(ラ)258号 決定
抗告人は「原審判を取消す。抗告人の名岡富を健と変更することを許可する。」との裁判を求め、その理由として左のとおり主張した。
抗告人の名は姓の逆読みで、幼少の頃から仲間はもちろん周囲の人々から嘲笑を受け、成人してからは、公私のことについて侮辱を受け、身を切られる思いも切実です。抗告人は長男であり、警防団員、青年団員をしており、婚姻適令期にもなつてきて、実名を必要とする機会もだんだん多くなり、その苦汁赤面を感ずる余り、一層気がかりでなりません。昭和十二年四月から学校に入つていたが、その際も、学籍簿を除いて、級友間はもちろん親族近隣その他凡ての人にも「健」の通称を使用してきて、本名「岡富」の名をきくときはは別人の感を抱かれております。なお、「岡富」の名は、農村ではただ奇抜な名として侮りを受けることを深く感じているだけですから、改名変更の裁判を求めるため本件抗告に及ぶ。
抗告人の名は、その主張のように姓を逆読みにしたもので、社会的に多少特異なものであることは認められるが、世間にはないことではないし、特に奇異奇抜なこととまでは認められないし、「岡富」の名自体もまた、社会的に特に奇異奇抜なものとも認められない。さらに抗告人主張のようにその名のために他から侮辱を受けているとの事実も認めることのできるなんの証拠もない。よつて、抗告人の主張する理由は、他の点について審理判断するまでもなく、まだ名を変更するについて相当な事由があるとは認められないから、これと同趣旨である原決定は相当で、本件抗告は理由がないから、本件抗告を棄却し、主文のように決定する。
(柳川 村松 中村匡)