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東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)21号 判決 1957年7月09日

原告 山田栄一

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、特許庁が同庁昭和二十九年抗告審判第二二二号事件につき、昭和三十一年四月二十四日にした審決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は別紙表示の商標につき、第四十五類他類に属しない食料品及び加味品を指定商品として、昭和二十八年七月八日特許庁にその登録を出願し、昭和二十九年一月十六日拒絶査定を受けたので抗告審判の請求をし、同事件は特許庁昭和二十九年抗告審判第二二二号事件として審理された上、昭和三十一年四月二十四日右抗告審判請求は成り立たない旨の審決がされ、右審決書謄本は同年五月八日原告に送達された。審決はその理由として商品に関し等級別表示記号として、又は品種別符号等として一般に数字が多く表示されており、本願商標はこの数字に相当する「五」の文字と、区廓の為普通に使用されている単なる円形輪廓を組合せて成るものであつて、商品に関し一般に使用される商品記号又は商品符号に外ならないから、結局自他商品甄別の標識として商標法第一条第二項所定のいわゆる特別顕著性の要件を具備していない旨説示している。

二、然しながら審決の判断は次の理由により不当のものであつて取消を免れないものである。即ち、

(イ)  審決の説く通り商品に関し等級別表示記号として、又は品種別符号等に一般に数字が用いられている事実があるとしても、商標の特別顕著性の有無は単にその構成自体により判定すべきではなく、その指定商品につきその商標が普通一般に使用されているか否かを判定して決定すべきものである(大審院昭和六年(オ)第二八三一号判決、特許庁昭和十五年抗告審判第一九一八号審決等参照)ところ、審決が単に本願商標も又その指定商品に関し一般に使用される商品記号又は商品符号に外ならないとしているのは、本願商標がその指定商品につき当業者又は需要者間に普通一般に使用されているかどうかの客観的判断を尽していないばかりでなく、本願商標における漢数字「五」がいかなる等級別や品種別を表示するものであるか、そのような使用の事実につき明示するところがないのは抽象的な推定に堕して具体的な観察を逸したものであつて、不当な判断である。

(ロ)  あらゆる種類の文字の内から一字をとつて之を円形輪廓で囲んで成る標章はその輪廓内の一文字が単純であればある程「マル」の呼び名と文字の呼び名とを結合させ、例えば<一><二><三><十><萬><大><中><小><K><P><福>等はそれぞれ「マルイチ」「マルニ」「マルサン」「マルジユー」「マルマン」「マルダイ(ダイマル)」「マルナカ」「マルコ」「マルケイ」「マルピー」「マルフク」等と言うように一連的に称呼観念し、自他商品の甄別的標識として普通に使用するのが取引上の実際であつて、殊に本願商標のように肉太の円形輪廓で一漢数字をとり囲んで成る記号又は符号的商標にあつては、円形輪廓が重要な要素をなし、文字と輪廓が一体不可分であるから、本願商標<五>は「マルゴ」印と通常称呼観念され、その円形輪廓は(被告の後記主張のように)単に数字「五」を区切りをつける為一般に用いられるものではなくて、「五」の文字と共に本願商標の不可分的な重要要素をなすものであるから、審決のしたようにみだりに両要素を分離して右文字をほしいままに抽出し、輪廓だけを除外することは誤つている。

三、よつて原告は審決の取消を求める為本訴に及んだ。

と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として

原告の請求原因事実中一の事実を認める。

同二の主張につき、本願商標の指定商品第四十五類他類に属しない食料品及び加味品中には、わが国独特の商品が多く包含されているが、之等の商品にはその等級別を表示する記号、又はその品種別の符号として、古くから数字が多く用いられており、本願商標もこの数字の内の「五」を区切りをつける為一般に用いられる単なる円形輪廓で囲んだものにすぎないことが明らかであるから、同商標はその指定商品の等級別表示の記号又は品種別符号であつて、商標法第一条第二項所定の特別顕著の要件を具有しないから、その登録は許すべからざるものであり、その登録出願を排斥した審決は相当であつて、原告の主張は失当である。

と述べた。(立証省略)

理由

原告の請求原因事実中一の事実は被告の認めるところである。別紙表示の本願商標を見るに、同商標は稍々肉太の黒の一線で画いた円形輪廓の中に「五」の一字を普通の書体で、且つ右輪廓と略々同じ太さで書いて成るものであることが認められるところ、漢数字が商品の等級別又は品種別を表示するに普通に使用されることは当裁判所に顕著なとこであるけれども、その故を以て本願商標のように「五」の一字を円輪廓で囲んだものが審決の説くように一般に使用される商品記号又は商品符号であると解することは到底できない。然しながら普通の書体で書いた漢数字の「五」も、又前記の円輪廓も、共に極めて簡単なありふれたものであるところ、本願商標のような単に前者を後者で囲んで成る両者の結合も又極めてありふれた且つ単純なものであつて、別段の特異性のあるものと認められず、結局このような商標は之を全体として観察しても自他商品甄別の標識たるべき特別顕著性を欠いているものと解せざるを得ない。

然らば審決が右商標に特別顕著性がないとの理由を以てその登録出願を排斥したのは結局相当であつて、右と異る見解の下に審決の取消を求める原告の請求は失当であるから、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

(別紙省略)

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