東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)54号 判決
当事者間に争のない事実、ことに本件特許出願が当初独立の特許出願としてなされたが、その後昭和二十五年特許願第一〇九一〇号発明を原発明とする追加特許願に訂正されたものである事実(右原特許願については、その後拒絶査定がなされ、原告は抗告審判を請求したが、更に原告の抗告審判請求は成り立たない旨の審決がなされ、原告提起にかかる該審決取消の訴が当裁判所に昭和三十一年(行ナ)第一六号事件として現に係属中である。)と、その成立に争のない甲第一、二、三号証の各一、二(本件特許願添付の明細書及びその後の各訂正明細書)の全文及び図面並びに当裁判所に顕著な右原発明(昭和二十五年特許願第一〇九一〇号)の要旨とを総合すれば、本件追加特許出願にかかる発明の要旨は、右原発明すなわち「洗濯液槽と回転攪拌器と攪拌器の駆動装置を有し、その回転攪拌器(いわゆる羽根車)は、(イ)円盤状のものであり、(ロ)一方向にのみ連続回転するものであり、(ハ)水平軸または略水平軸を有して洗濯槽の側面に取付けられ、作動中洗濯液に浸漬されること、(ニ)攪拌器の円盤が壁に近接して設けられることを特徴とする洗濯機」を改良して、その攪拌器に更に「(ホ)円盤の表面上に等間隙に置かれた星形の鋭い端縁を有しない緩い波状の突出部をそれと一体に設けたこと」を附加し、なお(ト)として「(ハ)における軸線の傾斜を鉛直線から少くとも三十度偏位したものまで」と具体的に限定した点をその発明の要旨とするものであると認定するを相当とし、この点において原告の主張と一致する。
前記当事者間に争のない事実並びにその成立に争のない乙第一、二号証の各一、二及び第三号証によれば、審決が引用した第一、二、三引用明細書には、次の事実が記載していることが認められる。
(一) 第一引用例、米国特許第二、〇七一、六二二号明細書は昭和十二年七月二日特許局に受入られたもので、これには「円筒形洗濯槽の底は略平面をなし、その中心を外れたところに垂直軸を有する攪拌器が取付けられ、その攪拌器は全体が薄板製中高の円盤状で、その一側部に中心から半径方向に等間隔の緩い波状の翼を設け、その残部を略同高とし、この攪拌器の取付部は、底板の一部を少しく低めて円盤周縁全部と底板との間の間隙を狭くしたもので、また洗濯液槽の底板には攪拌器取付部を除き、側壁から半径方向の五個の力骨を付し、その両側及び中央の力骨には底板から側壁にかけて邪魔板を設けて攪拌器の連続回転による洗濯液の渦巻運動を妨げた電気洗濯機」を記載しており、
(二) 第二引用例、米国特許第二、一一九、二五四号明細書は、昭和十三年十月十四日特許局に受入れられたもので、これには、「電気洗濯機において、洗濯液槽は平面で四角形をなし、その向い合つた側壁に、それぞれ水平軸を有する攪拌器を取付け、同じ中心軸線を有する半円筒形の底とそれに続く側壁と蓋板とを具えたもので、対面する二つの攪拌器は、その軸に固定された円盤とこの円盤に螺杆で取付けられた翼とからなり、その回転方向は実施の型によつて二攪拌器とも同一方向、互に反対方向及び共に往復運動の三種類あり、また洗濯物を収容するための金網製網籠を使用し、又は使用しないし、洗濯液は攪拌器軸に達しない程度とするものを図示するが、使用に当つてはそれ以外の液面にも使用できる」旨の記載がある。
(三) 第三引用例、昭和十年実用新案登録出願公告第一六五九号公報は、昭和十年二月十六日公告されたもので、これには、「円筒形洗濯機において、底面中心に垂直軸を有する攪拌器を取付け、これを往復動させるもので、この攪拌器は中高の円形上面に中心から放射状に等角度に緩い波状の突出部を設け、これを攪拌翼としたもの」を記載している。
よつて以上認定したところにより、原告の出願にかかる本件発明が、審決のいうように、「上記二つの引用公知事実(第一、二引用例の記載に基く)より発明力を要せずして当業者の容易に為し得るところ」であるかどうかについて判断するに、本件出願発明の要旨とするところのうち、「洗濯液槽と回転攪拌器と攪拌器の駆動装置とを有し、その攪拌器は、(イ)円盤状のもので、(ロ)一方向にのみ連続回転し、(ニ)その円盤全周縁が取付壁に近接して設けられ、(ホ)のように中心に向う半径方向の緩い波状の突出部を翼とした洗濯機」は、第一引用例に記載され、本件出願がわが国においてなされたとみなされる英国特許出願前わが国内に公知であり、また「洗濯機の攪拌器を液槽の側壁に取付けたもの」も、第二引用例により、同様英国特許出願前わが国内に公知であり、右第二引用例には記載していないが、水平軸攪拌器を液中に浸漬すれば、これを一方向に連続回転しても、垂直軸攪拌器の渦巻による欠点を除去できることは一般に知られた周知事実である。更に洗濯機の攪拌器の翼を中心から放射状に等角度に設けることは従来普通のことで、第三引用例の如きは、むしろこの普通の事例を、例示したに過ぎないものと解せられる。
してみれば本件出願にかかる「洗濯機械に関する改良」において発明とするところは、以上挙示した公知事実を湊合した当業者が容易に推考できる設計的考案に過ぎないものと解するを相当とし、特許法第一条にいわゆる発明を構成するに至らないものであり、従つて同法第二条の規定にも該当しないものといわなければならない。
原告代理人は、本件出願の発明は、特許請求の範囲に記載した数個の要素の組合せであつて、これらを組合せた結果その各々が持つていなかつた効果が得られるもので、決して個々の要素の有する利点の算術的和ではないと主張する。しかしながら、本件出願発明の場合において、その効果は、前記公知事実が有する効果をそのままに発揮したものと解するを相当とし、これらの要素を組合せたことによつて、それらの要素が持つていなかつた特殊の効果を創り出したものとは認めることができない。原告代理人はこれら特殊の効果として、本件洗濯機が先に認定した要件を具備することにより、新たな液の運動方式により良好な洗濯作用を生成せしめ、かつ構造簡易、取扱い便利等の利点を生成せしめるものであると主張するが、これらはいずれも本件発明そのものが有する、前記公知事実を組合せたものにはみられない特殊の効果というより、これを実施するに当つてなされる設計によつて得られる利点であつて、前記公知事実を組合せたものも、同様の設計によれば、同様の効果を生ずるものと解せられるから、原告代理人の右主張は採用することができず、その成立に争のない甲第五号証、第六号証の一、二、第十三号証及び当裁判所が真正に成立したと認める甲第十四号証中右認定に反する部分は、これを採用しない。
以上の理由により、原告の本件追加特許出願にかかる発明は、特許法第一条にいう発明を構成するに至らず、従つて同法第二条にも該当せず、特許することができないものであるから、これと同趣旨に出た審決は適法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由がなく、棄却を免れない。