東京高等裁判所 昭和32年(う)1016号 判決
被告人 森和雄
〔抄 録〕
被告人本人の論旨ならびに弁護人の論旨第一点について。
所論はいずれも原判決の事実誤認を主張するものである。そこで記録を調査すると原判決挙示の証拠を総合すれば原判示第四の(四)の事実を除くその余の各事実を認めることができるからこれらの事実について原判決の事実誤認を主張する所論は総て採用できない。けれども、当審において検察官から提出された森和雄に対する傷害被告事件の昭和三十一年六月二十日附起訴状、同年五月二十四日附同事件の送致書、同月二十二日附緊急逮捕手続書、同日附逮捕状、同年五月二十四日附勾留請求書、同月二十五日附勾留状、同年六月一日附勾留期間延長請求書、同月二十日附略式命令謄本送達報告書の各記載ならびに当裁判所における証人林有鳳の証言及び被告人本人の質問の結果を総合すれば、被告人は昭和三十一年五月二十二日傷害事件により城東警察署員に緊急逮捕され、東京簡易裁判所裁判官の発した逮捕状を執行された上、同年五月二十五日東京地方裁判所裁判官の勾留状によつて勾留され、同年六月十二日まで勾留されていたことが認められるから、少くとも原判示第四の(四)の日時である昭和三十一年六月七日頃にはその身柄を拘束されていたことが明白である。従つて被告人が右日時頃、原判示林有鳳から金五千円を喝取したという事実を認定した原判決はまさに事実を誤認したものにほかならないが、当審における証人林有鳳の証言ならびに被告人本人質問の結果を総合すると、被告人は昭和三十一年四月から毎月上旬、原判示林有鳳から五千円乃至八千円を喝取していたがたまたま同年六月上旬頃は前記のように勾留されていたので、釈放後である同月十七日頃、原判示第四の(四)記載の場所において、右林有鳳から六月分として金五千円を喝取していることが認められるから、結局原判決の認定は、ただ犯行の日時について約十日間相違しているに過ぎないことが明らかである。前記のような事実関係の下において、犯行の日時が約十日相違する程度の事実誤認は、判決に影響を及ぼさないものと解するのを相当とするところ、検察官は当審において、右犯行の日時を昭和三十一年六月中旬頃と訴因の変更をしたから、この点について原判決を破棄する必要はないものと認められる。而して原判決認定にかかるその余の各事実については、原判決にはなんら事実誤認の疑の存しないことはさきに判示したとおりであるから結局本論旨はいずれも理由がない。
(花輪 山本 下関)