東京高等裁判所 昭和32年(う)1072号 判決
被告人 徐正烈
〔抄 録〕
控訴趣意第一点について。
原判決が、その理由において、所論摘録のような賍物運搬の有罪事実を認定判示していることは、所論のとおりである。ところが所論は、被告人の本件所為は、原判示米兵らが、原判示衣類を盗み、トラックに積んで東京まで持つて行つた際、目下逃走中の李という者に頼まれて、他のタクシーに乗つて、米兵らについて行つただけであつて、賍物の運搬をしたものではないから、原判決には、この点につき、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある旨主張するにより、考察するに、刑法第二五六条第二項所定の賍物運搬罪における「運搬」とは、委託を受けて本犯のために賍物の所在を移転することをいうものと解すべきところ、原判決の判示事実は、被告人の所為がこの意味における賍物の運搬にあたる点をも含めてすべて原判決援用の証拠を総合することによつて優にこれを肯認することができるのである。所論は、本件につき賍物運搬罪が成立するには、賍品を所持しているか、少くとも、賍品を積んでいるトラックに乗つていなければならぬと解されるのに、被告人は、他のタクシーに乗つて、ついて行つただけであるから、賍物運搬罪は成立しない旨主張するけれども、賍物運搬罪が成立するためには、賍物の所在を移転する行為が、犯人の意思に基ずくことの認められる以上、必ずしも所論のように、犯人自らその賍品を所持し、またはこれを積んだ船車等に同乗していることを要するものではないと解されるところ、記録によれば、なるほど被告人は、本件賍物の所在を移転した際、自らこれを所持し、または、これを積載したトラックに同乗したものではなくて、他のタクシーに乗つて、右トラックと同行したものであることは所論のとおりであるけれども、原判決挙示の証拠に徴するときは、被告人が右トラックと同行したのは、窃盗本犯たる原判示米兵らの委託を受けて同人らのために右賍物を他に売却するに都合のよい東京市内までその所在を移転することについて協力するためになされたものであることが認め得られるのであるから、被告人の右所為は、正に刑法第二五六条第二項所定の賍物の運搬にあたるものといわなければならない。してみれば、原判決がその挙示する証拠によつて原判示事実を認定したことは、相当であるというべくなお、記録を精査検討してみても、原判決の右認定が誤つているとは考えられないから、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があるものということはできない。論旨は理由がない。
(中西 山田 石井謹)