大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1091号 判決

被告人 山田武治郎

〔抄 録〕

弁護人Aの控訴理由は、末尾に添附する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。

ところで、原判決の事実の認定に誤ある廉を見い出しがたいことは、被告人の論旨に対する判断において説述したとおりであるが、原判示第三の事実は、判示大野明がはじめから被告人のいう所を虚偽だと知つていたために錯誤に陥らなかつた場合であつたとしても、被告人の同人に対する判示のごとき申向たるや、通常人をして錯誤に陥らしめるに足るものと解し得られるのであるから、被告人の該申向を以て刑法上欺罔行為というを妨げることなく、これをもつて事実の欠缺乃至は不能犯とするのは当らない。けだし、講学上事実の欠缺といい、或いは不能犯とする場合は、行為そのものが性質上構成要件を充足するに由ないか、又はこれを充足することのできない場合を指すのであつて、本件の場合は、これとは異なり、被告人の行為そのものは詐欺罪の構成要件を充足する可能性はあつたが、偶々、相手方たる判示大野明の側に存した特別の事情のために同罪の構成要件を充足するに至らなかつたのである。だから原判決が右判示第三の事実に対し判示のごとく詐欺未遂罪の罰条を適用して被告人を処断したとて、論旨第一点及び同第二点において主張するがごとき違法の廉はない。それ故に、該各論旨は理由がない。

(中野 尾後貫 荒川)

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